
高校生の私は冬休みに実家の近くにある高級ホテルでアルバイトを始めた。宴会場での仕事は、客の食事が終わった後の片付けが主な業務だったが、酔っ払った客の対応や、重い皿の運搬で体力的には厳しいものだった。それでも、一緒に働く中堅社員の佐藤さんたちが優しく、なんとかやり過ごしていた。
そんなある晩、仕事に慣れてきた頃、宴会場の隅に古びた大きな鏡が置いてあるのに気づいた。佐藤さんに尋ねると「ただの装飾品だよ」と言われ、特に気に留めなかった。
その日も宴会が終わり、片付けをしていると、視界の端に何かが映った。振り向くと、鏡の中に白いワンピースを着た女性が立っているように見えた。驚いて目を細めてみるも、そこには誰もいない。気のせいだと思い、作業を続けることにした。
次に、右手から「ねぇ」と声が聞こえた。客が残っているのかと振り向くが、誰もいない。恐怖に襲われるが、声が左手からも聞こえ、心臓が大きく鼓動する。さらにその瞬間、背後から「フフフ」と不気味な笑い声が響いてきた。逃げ出したい衝動に駆られ、私は食器を放り投げ、全速力で休憩室へと駆け込んだ。
そこで、同じくアルバイトをしている女性が「やっぱり見ちゃった?」と聞いてきた。彼女はこのホテルの古い話を知っており、過去にこの宴会場で怪奇現象が頻発していたことを教えてくれた。鏡は昔、幽霊の目撃があった場所だという。私はその瞬間、あの鏡がただの装飾品ではないと理解し、恐怖が体を貫いた。幽霊を信じるきっかけとなった出来事だった。
その後、私はそのホテルでのアルバイトをすぐに辞めることを決意した。心に刻まれた恐怖は、今でも忘れられない。夜のリゾートは、見えない恐怖に満ちていたのだ。
この体験を経て、私は幽霊の存在を心の片隅に置くようになった。何が見えるか、何を信じるかは、時として自分の目の前にあるものを超えるのだ。
その夜以来、あの高級ホテルの前を通るたびに、背筋が凍るような思い出が蘇る。
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