
長編
【実話】八王子の幽霊ホテル
匿名 2020年10月5日
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今から14年前、私が実際に体験した話です。
受験生だった私は北海道の田舎から上京し1週間程都内の大学の近くのホテルを転々としながら試験を受けていた。
そんな中、八王子にあるビジネスホテルに一泊する事になった。
少し古かったが繁華街の近くにあり、賑やかな場所にあるホテルだった。
初めての一人での東京に少し興奮しながら街をふらふらと歩き、食事を済ませ翌日の試験に備えて夜の11時頃には就寝した。
場所柄か酔っ払いの宿泊客が数名で大きな声で話ながら廊下を歩くのがドア越しに聞こえた。
少し騒がしいなと思いながら、ここ数日の受験疲れからかすぐに寝入ってしまった。
突然ガチャガチャとドアノブをひねる音が聞こえ、目が覚めた。
少し驚いたが、「まぁ酔っ払いが自分の部屋と間違えているんだろう」と気にせずドア側に背を向けまた布団に入った。
おそらく夜の2、3時頃だろうか?辺りもまだ暗く街も少し静かになっていた。
しばらくするとドアノブをひねる音も止まり、「やっと諦めたか」と少しほっとしていた。
しかし次の瞬間ある違和感に気づき一気に身体中の血の気が引いた。
部屋の中に人の気配がするのだ。
「え?入ってきた?鍵開いてた?」
しかし酔っ払いにしては様子がおかしい。
暗い部屋の中で明かりをつけようともせずにじっと立ち尽くしているのだ。
「違う。泥棒だ!」
当時、受験生を狙った詐欺やカツアゲなどのトラブルがあると学校から聞いていた私は咄嗟にそう思った。
しかし自分は丸腰だし、相手が刃物でも持っていたら大事だ。
取られて困るような高価なものも大金も持っていなかったので、このまま寝たふりをしてやり過ごそうと思った。
おそらく男性であろう足音と息づかいが少しずつベットに寝ている私に近づいてきた。
「もし襲われるような事があれば即反撃、部屋を物色するだけならそのまま寝たフリをしてやり過ごそう。」
そう心に決めて息を殺しながら布団の中で男の様子を伺っていた。
ゆっくりと近づいてくる足音は部屋の角ちょうど私が寝ているベットの足元左側で止った。
「ふぅ...ふぅ...」
静まりかえった部屋の中で男の野太い息づかいだけが聞こえる。
私は恐怖で身体がグッと強張ったが、もしもの反撃に備えて全神経を足元にいる男に集中させ様子を伺っていた。
...おかしい。
その男はいつまで経っても
全く動くことなく、じっと私の足元に立ち尽くしているのだ。
「あ、これ人間じゃないかも」
と頭を過った時、一気に鳥肌が立ち、心臓が今まで以上にバクバクと音を立て始めた。
私はあまり恐怖に身体が動かず、男に気付かれない様に、ただ息を殺して心の中で念仏を唱えながらこの状況をやり過ごす事しかできなかった。
じとっとした気配と野太い男の息づかいを感じながら、ずっと布団の中でカタカタと震えていた。
「自分はどうなってしまうんだろう」
そんな恐怖に怯えながら布団の中に隠れている時間はとても長く感じた。
何時間か経った頃、気がつけば男の気配と息づかい感じなくなった。
布団の隙間から光が刺していて外も明るくなったようだった。
恐る恐る起き上がり、バッと足元を見てみるとそこには誰もいなかった。
やはり泥棒だったのかと部屋の中を確認したが、何かを取られた様子もなく、なにより部屋には内側からドアロックがしっかりかかっていた。
「悪い夢でもみたのかな」
と思ったが、あまりにリアルだったので不気味に感じでバタバタと急いで荷物をまとめすぐに部屋をチェックアウトした。
チェックアウトを済ませようとフロントに行くと携帯電話を忘れたことに気がついた。慌てて荷物をまとめたのであの部屋に忘れてきてしまったのだ。
とても気が重かったのだが、
ホテルの人に幽霊が出たから戻りたくないとも言えずにフロントに荷物を預け渋々、部屋に戻ることにした。
部屋の前についた。
「またあの男がいたらどうしよう。」
とても気が重かったが意を決してそっとドアを開けるとおかしな様子もなく、なんの変哲もなかった。
ほっとしてベットの周りを探すと下に落ちていた携帯を見つけ、立ち上がろうとしたその時に...嫌なものを見つけてしまった。
「足跡だ。」
あの男がいたベットのそばのカーペットにおそらく何時間も立っていたのであろう足跡の形の少し黒ずんだくぼみがあった。
「やっぱりいたんだ」
ゾっと背筋が凍り、私は慌ててロビーまで走った。
ここまでが私の数少ない心霊体験の一つだ。しかし受験やその後の引越しなどの忙しさから、暫くそのことをすっかり忘れてしまっていた。
大学入学から半年くらいたった頃、ふとその記憶が蘇ったが八王子のホテルの名前がどうしても思い出せなかった。
気になってしまいネットなどで調べたがそれらしい心霊スポットの情報も見当たらない。
一向に情報が見つからずもう諦めようと思った。その時にたまたま受験生の時に使っていた古い参考書が目に入りパラパラとめくっていると一枚のレシートが落ちてきた。
その八王子のホテルのレシートだった。
「ああ、そうだ。このホテルだった。」
曖昧だった記憶がその一枚のレシートから鮮明に蘇った。
ずっと忘れていた記憶が突然に蘇ったこと、そのタイミングで都合よく半年以上も前のレシートを見つけたこと。
偶然にしては出来すぎていて、不気味だった。
またあの場所に呼ばれているように感じて少し怖くなった。
後日談:
- 今でも営業しているホテルなので、名前や特定に繋がりそうな情報は差し控えさせて頂きます。ちなみにそのホテルの口コミや情報も改めて調べましたが、幽霊が出たなどの情報は一切ありませんでした。
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