
コンビニのバイトが終わったのは日付が変わる少し前だった。
夏が終わりかけの夜で、昼間の熱がまだ地面に残っている。
田舎で街灯はほとんど無く、次の灯りまで暗闇を歩かされるので自然と歩調が早くなる。
住宅街を抜けるまで徒歩で15分ほど。
イヤホンは片耳だけ外して歩く。
何かあった時、すぐ気づけるように。
──近道のため路地裏に入る。
人の気配は全く無い。
明るい音楽に切り替えて怖さを誤魔化す。
しばらくして急に背中がむず痒くなった。
誰かに見られているような、理由のない感覚。
止まるとほんの少しだけ遅れて、後ろから靴音がずれて聞こえてくるような、そんな感覚。
足を止めて振り返る。
アスファルトの道。
弱々しく光る自動販売機。
街灯の下に伸びる、私の影だけ。
「……気のせい…だよね。」
自分に言い聞かせるように呟き、再び歩き出す。
数分後、また同じ感覚が背中をなぞった。
今度ははっきりと。
もう一度ゆっくりと振り返る。
数少ない街灯が照らす先。
そこに⸻
黒い影が立っていた。
人の形をしていて、大人くらいの背丈。
顔も服もわからない、輪郭だけの影。
街灯の光が当たっているはずなのに、そこだけが光を拒むように黒い。
声が、出なかった。
その場に立ち尽くす。
影はぴくりとも動かない。
まるで歩く途中で止まったかのような姿勢。
(……とにかく離れないと。)
背中を向けるのが怖くて、横目で影を捉えたまま後ずさる。
それでも影は動かない。
なんとか家に辿り着き、その夜はそれ以上何も起きなかった。
⸻⸻⸻
翌日、昨夜の出来事を彼氏に話した。
"怖かった"というより"気味が悪かった"と。
彼「なにそれ。見間違いだろ。」
彼は笑った。
それでもその日からバイト帰りは一緒に帰ることになった。
⸻⸻⸻
その夜。
バイトを終えると彼氏と2人で帰宅する。
ギュッ。
問題の場所に近づくと、私は無意識に彼の腕を掴んでいた。
「……ねぇ。」
昨日、影が立っていた場所。
「……あれ…。」
彼も目を見開いている。
「……あぁ。俺にも見えてる…。」
影は昨日と同じ場所に立っていたのだが、1つだけ違っていた。
歩く途中の姿勢のまま、右手を私に向かって伸ばしている。
しかも、なんだか昨日より近い気がする。
影はやはり動かない。
一秒、二秒、三秒。
耐えきれず、私たちは踵を返して走り出した。
「ハァ、ハァ。マジかよ……。」
「ね、言った通り、だったでしょ……。」
人通りの多い場所に出て呼吸を整え、2人とも無言のまま帰宅した。
そして今夜も影が再び現れることはなかった。
⸻⸻⸻
後日談:
- 彼女が消えてから何日経ったのか、もうわからない。 警察は事故だと言った。 証拠は無いけど、そういうことにしたらしい。 俺だけが彼女が"消えた"ことを知っている。 ⸻⸻⸻ 最初に影を見た場所へ来た。 あの路地裏。 自販機と街灯。 何も変わっていない。 ……いや。 街灯の下に、影が立っている。 動かない。 大人くらいの背丈。 歩く途中のような姿勢。 近づくにつれて、胸が苦しくなる。 あの日見た影とは少し違っていた。 髪の長さや肩のライン。 ……彼女だ。 「……お前、なのか……。」 返事はない。 影はただ立ったままだ。 手をこちらに伸ばしたまま。 ⸻⸻⸻ スマホを取り出す。 もし、俺が消えてしまった時のために。 もし、誰かがこれを見つけた時のために。 === 記録 === 彼女はここにいる。 動かない。 見ている間は何も起きない。 だから俺は目を逸らさない。 もしこれを読んでいる人がいたら、頼む。 影を見続けろ。 一瞬でも⸻ ======== そこで文章は途切れている。 ⸻⸻⸻ 数日後。 この路地裏で新しい噂が流れ始めた。 街灯の下にある影が立っている、と。 そして、その影を見たものは行方不明になる、と。 ⸻⸻⸻ だーるまさんがーこーろんだ……。
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