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長編

ウルドゥー語に呪いを込めて

しもやん 2日前
怖い 60
怖くない 15
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 わたしは海運系のフォワーダーに勤めるごく普通のサラリーマンである。勤務先は海上コンテナの運賃販売にはタッチせず、ひたすら通関のみを専門に請け負う中小企業だ。通関専門というのはますます総合物流化の著しい昨今、業界の中ではちょっと珍しい。  総合物流は便利には違いない。フォワーダーの担当窓口にこれこれこういう貨物を輸出したいとだけ伝えれば、船社の手配から船積みまで一貫してやってくれる。電話一本で輸出完了である。ひとつ難点があるとすれば、料金の不透明性――平たく言えば『高い』のだ。  外国人荷主は利便性よりコストを極端に重視する傾向がある。彼らはパキスタンなりスリランカなりの発展途上国から単身で日本に渡り、片言ながらも日本語を覚え、文法のメチャクチャな英語を操り、自転車操業で冷や汗を流しながら中古車輸出に取り組んでいる。連中の辞書に『どんぶり勘定』の文字はない。安さが正義であり、安さこそがすべてなのだ。そこにうちのような弱小中小企業のつけ入る隙がある。  以下に記すのは、わたしが担当したとある外国人荷主の末路である。外聞をはばかる内容かもしれないが、誰かに読んでもらうことで肩の荷を下ろしたい気持ちを抑えきれなかった。わたしはこの記録を通して、彼に許しを乞いたいのだ。      *     *     *  アブドゥール・モハメドさんとの取引が始まったのは、かれこれ3年以上前になる。パキスタン出身の30代男性、色黒で恰幅のよい体型をしており、片言の日本語でまくしたてる底抜けに明るい好人物だった。モハメドさんとの取引を決意したのは、多分に彼の楽天的な部分に惹かれてのことだったのだろう。  うちとの取引が始まるまで、彼は中古車のバンニングヤードで下働きをしていたのだが、培ってきた人脈を活かして一念発起、独立した。日本車は丈夫で故障が少なく、なおかつ安い。当然、世界中から引き合いがある。そうした需要を満たすべく、海上コンテナに車を積み込み(これをバンニングと呼ぶ)、輸出して利ザヤ(とリサイクル券還付)をとるのが中古車ビジネスである。  モハメドさんは自社ヤードを持たず、中古車バンニングを他社へ委託する形で利益を上げる完全仲介型の輸出者だった。このスタイルは初期投資費用がかからない分、利幅は少なくリスクも大きい。常に仕入れ先への支払いに追われ続け、そのいっぽう荷主からの入金は遅れがちだ。事業は危ういバランスの上に成

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  • 久々の新作は人怖モノで新鮮でした。次回作にも期待します。
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