
私が通っていた中学校には、妙な決まりがあった。
昼休みの終わりに流れる予鈴のあと、放送室から名前を呼ばれても、すぐには行ってはいけない。
今思えば、そんな決まりが校則に書かれていたわけではない。先生が朝礼で注意したこともない。ただ、上級生から下級生へ、部活の先輩から後輩へ、まるで忘れ物の場所を教えるみたいに、当たり前のこととして伝わっていた。
「予鈴のあとに呼ばれたら、まず職員室に行け」
「放送室に直接行くな」
「呼ばれた理由を誰かに聞け」
「誰も知らなかったら、今日はもう放送室には近づくな」
最初は、ただのいたずら防止だと思っていた。
うちの学校の放送室は、職員室の横ではなく、旧校舎の三階にあった。旧校舎といっても、理科室や美術室、視聴覚室がまだ使われているので完全に廃れているわけではない。ただ、昼でも薄暗く、廊下の窓はすりガラスで、外の光が白くぼやけて入ってくる。
その一番奥に、放送室があった。
分厚い防音扉。小さなガラス窓。扉の上には赤いランプがあり、放送中だけ点灯する。中には古いミキサー、マイク、カセットデッキ、CDプレイヤーが並んでいて、私たち放送委員は、昼の校内放送や掃除時間の音楽をそこで流していた。
私がその噂を本気で怖いと思ったのは、中学二年の秋だった。
その日、私は放送委員の当番だった。
昼休みの校内放送で、給食委員からのお知らせと、図書室の新刊案内を読み上げるだけの簡単な仕事だった。相方の佐伯さんは風邪で休みだったので、私一人で放送室に入った。
放送は問題なく終わった。
マイクのスイッチを切り、赤いランプが消えたのを確認して、私は原稿をまとめた。外では、昼休みの終わりを知らせる予鈴が鳴り始めていた。
キーンコーンカーンコーン。
古いスピーカーを通した音は、少し割れていて、校舎の壁にぶつかりながら遠ざかっていく。
私は放送室の鍵を閉め、廊下に出た。
その瞬間だった。
スピーカーから、声がした。
「二年三組、山瀬由香さん」
私の名前だった。
私は足を止めた。
最初、自分が聞き間違えたのだと思った。けれど、廊下の先で歩いていた一年生たちも振り返っていた。階段を上がってきた男子も、顔を上げてスピーカーを見ていた。
間違いなく、校内放送だった。
少し間を置いて、また声が流れた。
「二年三組、山瀬由香さん。放送室まで来てください」
声は、女の人の声だった。
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