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長編

日本101名山

しもやん 3日前
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 日本百名山という山岳格付けがあることをご存じだろうか。その名の通り、日本の名山を100座リストアップした一種の登山指南である。  火付け役は深田久弥という小説家だ。全国津々浦々の山を巡った自身の登山体験をもとに、標高、地域性、山容の美しさなど多岐にわたる評価項目をベースにして執筆した随筆がもととなっている。  その随筆が〈日本百名山〉と銘打って出版されている。初版は1964年とすでに古典の領域に入っている書籍であるが、多くの山屋に愛読され、いまなお読み継がれて版を重ねている。  出版当初はいち文筆家の見解にすぎない単なる娯楽読み物であったのだが、いつしか本書は登山界隈においてバイブル的扱いを受け始める。しまいには百名山完登に生涯をかけて取り組む百名山ハンターまで現れるほどの盛況ぶりとなる。  以下に記すのは、わたしが若いころに遭遇した百名山ハンターにまつわるエピソードである。      *     *     *  全盛期であった20代後半、わたしは暇さえあれば中央アルプスへ歩きに行っていた。なかでも空木岳(2,864メートル)は日本アルプス初挑戦の山とあって、非常に思い入れの深い山である。  10年ほど前の盛夏のある日、わたしは例によって池山尾根から空木岳をハントし、山頂で微風に吹かれていた。宇宙空間が透けて見えるような快晴で、多くの人びとが登頂しては下山していく。  人びとの様子を漫然と眺めていると、一人の壮年男性が颯爽とした足取りで山頂へやってきた。日に焼けた顔、筋肉は弓のように張り、健康そのものといった風貌だ。方角的に中央アルプスの稜線を縦走してきたのだろう、装備は軽装で、真っ赤なウィンドブレーカーを羽織っていた。  壮年男性はどっしりと腰を下ろしているわたしを認めると、「まいどおおきに」と快活に声をかけてきた。 「ホンマええ天気でんな。あっちのほうの山、名前わかりまっか?」  わたしは赤柳岳や南駒ヶ岳がどれにあたるか指し示してやった。彼は目を輝かせて聞き入り、山岳名を覚えようとしているのだろう、何度も山の名前をもごもごとくり返しつぶやいている。  男性は和泉と名乗ったあと、腕を十字に組んでストレッチをしながら唐突に切り出した。 「実はわし、百名山やってん」  驚くべきことではなかった。空木岳は百名山に指定されている。百名山で百名山ハンターに出会うのはごく自然なことだ。 「何座まで達

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  • 奥の深い実話怪談でした。 百名山に魅せられた挙げ句、存在すら疑わしい未踏の101目の山「禍嶺」に傾倒するあまり、愛する家族や、生きる希望すら失ってしまった人間の業。ラスト一文が、切なく響きました。
    慈母観音
  • 山には登らないけど話は興味深くおもしろかったです。
    うんこりん
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