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長編

生命線

匿名 2024年6月9日
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※このお話はある漫画の一部をもとにして作成しています。 ______________________________________________ 俺たち夫婦の馴れ初めは少し変わっている。 俺は会社の同僚に無理やり連れられ、合コンに参加していた。場は手相の話で盛り上がっていた。 瑠奈「梶原くん!手相見せて!」 前に座っている女性、瑠奈さんはそう言うと半ば強引に俺の手をとった。 瑠奈さんは俺の手を見て、少し驚いた顔をして言った。 瑠奈「え!梶原くんの生命線短すぎない⁉︎」 確かに、言われてみれば俺の生命線は短い。 周りを見てみてもみんな俺よりも線が長かった。 瑠奈「やだなぁ、旦那さんが先になくなったら悲し    ~」 俺はあまり占いとか手相を信じないタイプだが、 もし俺が将来結婚して、生命線の通り奥さんよりも先に死んだら奥さんが気の毒だろう。 結婚するなら俺と同じくらいの生命線の長さの女性がいいなぁ…なんてくだらないこと考えていると、瑠奈さんの隣に座っている女性、美和子さんが口を開いた。 美和子「あの…実は私も短いんだ…生命線。」 美和子さんの手を見ると俺と同じくらいの生命線の長さだった。美和子さんは綺麗な顔立ちをしているし、少し大人しいが優しい性格だ。美和子さんが俺の奥さんなら…なんてまた俺はくだらないことを考えていた。 美和子「これなら…お互い寂しく無いね。」 美和子さんは少し顔を赤らめて言った。 俺は予想外の言葉に少し驚きながらも、 こくりと頷いた。 そんな出会いから美和子さんとはよく連絡を取るようになり、交際がスタート。トントン拍子で結婚し愛する娘も授かった。 娘の和心も一歳になり、安定した生活が送れるようになってきたある日、妻が娘の手を見て言った。 美和子「ねぇねぇ…この子、生命線が無いのよ     ね…」 確かに、和心には生命線が無い。ただ娘はまだ一歳だ。これから出てくるものなのだろう。妻にもそう伝え、それから俺たち夫婦は特に生命線について気にしていなかった。 しかしその後も、和心の手に生命線ができることはなかった。 しばらく経ち、俺が部屋で調べ物をしていると娘を抱えた妻が不安そうな顔で部屋に入ってきた。 美和子「私達家族、みんな一気に死ぬとか…     無いよね…?」 妻は自分と娘の手を見て言った。 また手相の話かと思った。だが妻は本気で心配しているらしい。 美和子「私とアナタは手相的には今頃亡くなるで     しょう?それにこの子には生命線が無     い…」     「家族で何か…事故に巻き込まれる…と      か…」 それほど心配している妻を見ているとなんだか俺まで心配になってきた。俺は妻に、心配ならしばらく三人で外に出るのは止めようと伝えた。妻も頷いてくれた。 それから家族で外出することは一切なかったが、 一度芽吹いた不安は消えることなく、家族を圧迫し続けた。 毎日、俺たちは生命線が短いから家族全員で死んでしまうのでは無いか、殺されてしまうのではないかという話ばかりをしていた。 俺たち家族は狂っていった。 俺は少し前に、仲の良かった同僚に陰で悪口を言われていた。上司の細野さんも最近やけに冷たい。 妻の友人も、仕事を理由に最近妻に会ってくれないらしい。 きっとみんな俺らを妬んでいるのだろう。俺たちは恵まれている家族だ。だからきっと、そんな俺らを殺そうとする奴らがいてもおかしく無い。 俺たち夫婦はこの先一緒にいたら生きていけない。 死んでしまう。 生命線が短いから。 俺にはこの方法しかないと思った。 俺「なぁ、美和子…俺たち別々で暮らさないか?」 俺たちが一緒にいれば絶対に死んでしまう。美和子に初めて会った時には、生命線が短い者同士、結婚できたら良いと思ったが今思えばその選択は間違っていた。美和子も俺と同じことを思ったのか頷いてくれた。 準備は早いほうがいいと思い、俺は早速この家を出て行く準備をした。 俺「じゃ、今夜はホテルに泊まるから。」 俺は妻にそう別れを告げた。 少し寂しい気もするが生きるためなら仕方がない。ホテルに着いたら妻に連絡しよう。 俺は早々に家から出ようとし、玄関のドアを開けた時だった。 細野「あ…。梶原くん、最近会社に来ていないか    ら心配して…」 ドアの前には上司の細野が立っていた。最近やけに冷たかった細野が家に来るなんておかしい。 心配して来たなんてきっと嘘なのだろう。 俺たちを殺しに来たのだ。 俺は勢いよくドアを閉め鍵をかけた。 美和子「なに?どうしたの⁉︎」 俺「細野が来た!上司の細野が‼︎」 俺と美和子は顔を青くし、急いで逃げようとした。 焦って花瓶が落ちて割れてしまったが俺たちにはどうでもよかった。 美和子「べ、ベランダから逃げられない⁉︎」 ベランダはこの部屋から勇逸逃げられる出口だが、 マンションの奴らに遭遇したくない。それにしたの親父もおかしな奴だし信用ができない。 美和子「じゃあどうするの⁈」 玄関の方からは細野がドアをドンドンと叩く音が聞こえる。俺たちに逃げ場は無い。 俺の人生はどこから間違っていたのだろうか。美和子に会ったところからか? いや、きっとこの生命線が全てを狂わした。 全部この手相が悪い。 俺は一か八か生命線を延ばすことにした。 床に散らばった花瓶の破片を手に取り、手の生命線に沿って、手首まで線を伸ばすように手を切っていた。手は赤く染まり、痛みも感じた。だが、それもどうでも良い。 美和子「な、何を…?」 美和子はそんな俺を見て怯えていた。 家族を守るためなら線を延ばすしかないと思った。 俺は美和子に近づき破片を美和子の前に突き出した。 俺「美和子、お前もやるんだ!!」 俺は美和子の腕を掴み、抵抗する美和子に言い聞かせた。 俺「ここで全員死にたいのか⁉︎できることは全て   やらなきゃ‼︎」 美和子は体勢を崩し壁に頭を打ちつけた。俺は今がチャンスだと思い、美和子の手首を掴み俺と同じように線に沿って手首まで長く線を延ばした。 美和子は声にならない悲鳴をあげた。 俺は美和子が抱いていた娘の和心に目を向けた。 家族が生きるためだ。仕方がない。 俺「和心〜お前の為だ、じっとしておくんだよ…」 俺は和心の手を取り、線を描いた。まだ一歳の娘には長生きして欲しい。手のひらから肘くらいまでの長い生命線を俺は描いた。 和心「…ッギャャァァァアアア」 和心は大声で泣いた。俺もしたくてこんなことをしているのでは無い。 生命線が家族みんな延びて俺は少し安心した。これで家族みんなで生きて、平和に暮らせるだろう。 部屋を見渡してみると血で汚れてしまったり、ものが倒れていたりしてしまっている。 俺「掃除しなきゃなぁ…」 色々あったので少し疲れてしまった。 掃除をする前に俺は少し休もうと、ぐったりした妻と娘を抱え、ソファーに座った。 俺はようやく家族で平和に暮らせる嬉しさと安心で直ぐに眠ってしまった。 ________ ________________________ 細野「……はい、そうです!中から悲鳴が聞こえ    て…。はい…はい…お願いします!」 俺が仕事帰りに梶原の家を訪ねると、偶然、家を出る梶原と遭遇した。梶原は仕事も真面目に取り組む奴だったのに、最近は会社に全く来ていなかった。 俺はそんな梶原を心配に思い家を訪ねたのだが 梶原と顔を合わせた途端、梶原は怯えた形相をし勢いよくドアを閉められてしまった。 しばらく待ってみたが中からは何も反応がなく、ドアを叩いても梶原は出て来てくれなかった。 それから少し待っていたら中から悲鳴が聞こえたので、何かあったのだと思い急いで通報した。 隊員「すみません、通報者は貴方で間違い無いでし    ょうか」 通報して待つこと15分ほど、ようやく救急隊員の方が来てくれた。 細野「はい、間違いないです!あ、あの、早くドア    を…!」 俺が状況を説明すると、大家さんが部屋の鍵を持って来て開けてもらい、中に入ることができた。 玄関を覗いても物音一つしない。俺と救急隊の方は奥のリビングの扉の前へと進んだ。 俺はゴクリと唾を飲み込み、ゆっくりと扉を開ける そこには梶原と奥さん、娘さんが仲睦まじく ソファーに座っていた。 三人のだらんとした手首からは血がゆっくりと垂れ落ちていた。 ______________________________________________    読んで頂きありがとうございます。

後日談:

  • 読みにくいところがあればすみません

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