は山岳国である。無数の山があり、日々登山者が入山している。2017年の行方不明者数は84,850人で、生きていたのか死んでいたのかはさておき、最終的には81,946人が見つかっている。それでも差し引き2,904人もの人間が消えている勘定になる。 　そうした〈完全失踪者〉たちの何割かはたぶん、鈴鹿のような深い山のどこかにいるのではないだろうか。それももちろん遺体になって。 　晩秋になって鈴鹿山脈がシーズンインに入り、ヒルを気にせず歩ける解放感に浸りながら山歩きをしているとき、ふとしみだらけになった行方不明者の写真が目に入る。そんなとき俺は、遺体だらけの山やまをいやでも想像してしまうのである。