
長編
藤沢・悪魔祓い殺人事件
匿名 2016年9月28日
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【事件概要】
1987年2月25日夜、神奈川県藤沢市のアパートの一室で、2人の男女が遺体を切り刻んでるのが発見された。殺害されたのは横須賀市のミュージシャン・Xさん(32歳)。Xさん殺害と死体損壊の容疑で逮捕されたのは横須賀市の不動産業・S(当時39歳)と、Xさんの妻・M子(当時27歳)だった。2人は悪魔を祓うために解体していたのだという。
S
M子
【悪魔はどこにいた】
1987年2月25日夜、神奈川県藤沢市のアパートの一室で、2人の男女が遺体を切り刻んでるのが発見された。
死体は頭、胴体、足に切り離され、さらにコマ切れにされ、敷かれたシーツは真っ赤に染まっていた。床には肉片が詰められた大量のビニール袋が置かれていた。男はちょうどカッターナイフで頭蓋骨の肉をはぎ、女はハサミで足の肉を切っているところだった。
通報を受けた藤沢北署員や家族が駆けつけても、2人は一心不乱に作業を続けていたという。
殺害されたのは横須賀市のミュージシャン・Xさん(32歳)。
Xさん殺害と死体損壊の容疑で逮捕されたのは横須賀市の不動産業・S(当時39歳)と、Xさんの妻・M子(当時27歳)だった。
「Xに悪魔が取り憑いたので、それを祓うために殺した」
Sはそう供述した。
【3人の男女】
SとXさんは従兄弟同士。家も2軒隣りだった。子供の頃から仲がよく、XさんはSを「兄貴」と呼んで慕っていた。
Sは横須賀市の定時制高校を卒業し、家業の不動産業を手伝い始めた。79年には宝石関係の取引で詐欺事件を起こして逮捕されている。その後も詐欺まがいのトラブルを起こしたり、ブラブラしてX家に金を無心しに行くなどしていた。
Sは横浜市に本部のある神道系の新興宗教「大山祇命神示教会」に入信、Xさんにも勧誘した。
Xさんは30歳までに芽が出なかったら家業のビル清掃を手伝うという両親との約束で音楽活動を始め、「スピッツ・ア・ロコ」というバンドで83年にデビューしている。2枚のシングルと1枚のLPを出し、横浜を中心としたライブハウスで活躍していた。ステージではメンバーが祖父母、父母、子供に扮するという変わったパフォーマンスをしており、ドラムスのXさんは娘役で女装していたという。Xさんは「和製マイケル・ジャクソン」と評されることもあったようだ。
M子は中学3年の時、秋田県から横浜に移ってきて、中学を卒業すると、鎌倉市の総合病院で勤務しながら、准看護婦の資格を取った。そして今度は正看護婦の資格を取るために、病院で働きながら県立高校の定時制高校に通って、高卒資格を取った。
准看護婦として勤務していた79年頃、Xさんの弟がオートバイ事故を起こし、総合病院に入院した。そうしてM子はXさんと出会い、交際を始めた。M子は彼の勧めで「大山祇命神示教会」に入信するようになった。しかし、Xさんの音楽活動が忙しくなってくると、教会に足が遠のき、会費滞納で脱会となった。
86年4月、XさんとM子は結婚。Xさんの実家で同居したが、病気のXさんの父親を看病するなど、仲良く暮らしていたという。
【救世の曲】
86年10月、埼玉にいたSが帰ってきて、藤沢市のアパートを借りた。Sは幸せに暮らしていたXさんとM子の元へやって来て、「この世は悪魔でいっぱいだ。やがて、核戦争が起き、世界は滅亡するだろう」「悪魔を祓い、救世の曲を作れるのはお前しかいないんだ」「自分には神が降りた」などと2人に説き始めた。そうした教義は「大山祇命神示教会」にはない。Xさんはもちろん最初からその話を鵜呑みにしたわけではなかったが、「救世の曲」のことはずっと心に引っかかるようになった。
テレビ出演も果たした87年、Xさんはバンドのメンバーに「救世の曲」のことを相談する。すでにその頃には解散話も出ていたため、メンバーとの離縁は決定的なものとなった。
「俺の部屋で曲を作れ」
2月15日、Sにそう言われたXさんは藤沢のアパートにこもり、曲を作り始めた。SとM子も一緒である。バンド仲間やM子の両親が「もう帰ろう」と訪ねて来ても、彼らは耳を貸さなかった。
2月19日、XさんとM子をSから引き離そうと、事態を深刻に見たバンド仲間やXさんの両親が3人と話し合った。そのなかで、M子は横浜の実家に戻るのがいいということになり、M子もその通りにした。M子の親は離婚するように言ったが、当のM子は「この世を悪魔から救わなくちゃ」とこぼすだけだった。
「ぼくにも悪魔が取り憑いた」
Xさんがそう言い始めたのは翌20日のこと。M子も実家から舞い戻ってきた。
2月22日、Sは「悪魔祓いの儀式」が始めた。
2人はまずXさんの体に塩をすりこみ清めた。
そしてSはXさんとにらみ合う。Xさんが目をそらせば、悪魔が出ていったということになるが、Xさんは目をそらさなかった。
「悪魔を追い出すには肉体が死ななければだめだ」
SはM子に手伝わせて、Xさんの首を絞めて殺害した。その後、「救世の曲」をかけっ放しにし、3日間ほとんど寝ずに遺体を切り刻んでいたという。頭や内臓にまで悪魔が取り憑いていると思っていたからである。
バンド仲間や両親がその異様な光景を目にしたのは25日夜のことだった。
【裁判】
92年5月13日、横浜地裁は「2人には善悪を判断する能力があった」とする精神鑑定の結果を元に、Sに懲役14年、M子に同13年を言い渡した。
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