
長編
物件
匿名 2日前
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い。
兎に角、その、この世とは思えない空気感と景色に圧倒された。
慌てて紙を戻し、カーテンを引いて扉を閉めた。
「もう、いいです!」
営業の彼にそうだけ告げて、部屋を飛び出した。
ちらりと彼の顔を見たとき、ゾッとした。
表情が崩れているのではない。顔のパーツの位置が狂っているわけでもない。
ただ、そこにあるべき“人間の形”が何かおかしく、まるで何かがゆがんで透けているような、そんな得体の知れない違和感があった。
店舗に戻る途中、どちらも黙ったまま。
背筋に冷たい何かが張り付いているようで、とても楽しい会話ができる状態ではなかった。
営業の彼も、何か様子がおかしい。
店舗に戻ると、別の女性の営業が現れ、
「今日中に捺印しないと他のお客様に渡ってしまいますよ!」と急かしてきた。
私はスマホで撮った写真を見せようとしたが、なぜかカメラが起動しない。
契約はもちろん断った。
営業の彼は最後まで店の前で見送ってくれた。
そこで、ふと例の写真を彼に見せようと思った。今度はちゃんと起動する気がしたのだ。
思った通り、カメラは何事となかったように起動した。
例の写真を開き、
「すみません、これだけ見ていただけますか?」
と言って写真を見せた。
すると、みるみる彼の顔が青ざめ、しどろもどろで何か言いながら、店舗の中に消えていった。
これで、少しは納得してもらえただろうか?
駅前までくると、そこは明るく賑やかで、とても安心した。人の喧騒がこれほどホッとするのは初めてだったかもしれない。
家の前、あと数メートルというところで、突然コートの裾が引っ張られた。
枝にでも引っかかったのかと思ったが、周囲には何もなかった。確かに、何かが引いていた。
肩が異常に重くなり、裾がグイグイ何かに引っ張られる。頭が冷たく重たくなり、それは背中から全身に広がった。動けなくなった私は、震える手で母に電話をかけた。
「おねがい、塩を…持ってきて」
母はすぐに玄関に現れ、私の姿を見つけると走ってきて、頭と肩、全身に塩を振りかけてくれた。
その瞬間、肩の重みも裾を引く力も、すっと消えた。
母方の親戚は、霊感のようなものを持っている人が多く、母はたいして驚いていない様子だった。理由も聞かず、ただただ、わたしの事を心配してくれるので、怖かったのと張り詰めていた神経が緩んだのとで、その場で泣き崩れてしまった。
家に戻ると、弟たちが
後日談:
- 例の写真は、鏡面ガラスが貼り付けられたキッチンを撮った際の写真でした。 鏡面ガラスに反射して写真を撮っている自分の姿が写っていたのですが… 肩辺りで切り揃えられた黒い髪に、白い痩けた小さな顔、水色の浴衣を羽織った子どもが長い腕を私の腰に巻き付けこっちを見ている姿が写っていました。 ハクだったら良かったのに…
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