
中編
金縛り
匿名 2022年11月20日
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目が覚めたら身体が動かない。横向きで寝落ちしたのか左手に携帯を持ったままだ。体制が悪かったのか、右手を動かそうにも力が入らない。いったん目を閉じて二度寝しよう。
‥‥再び目が覚めた。駄目だ朝と変わらない。試しに声を出してみたがろれつが回らない。目は動く、でも首が動かない。これが金縛りか?埒があかない、駄目だ、もう一度寝よう。
‥‥目が覚めた。まだ駄目だ。動かない。空腹感も凄まじい。携帯を持つ指がかろうじで動いた。なんとか親指で指紋認証のロックを開けた。もう昼時か。オカルト研究会の先輩に電話。そういえば先輩の電話番号、知らなかった!いつも一緒にいるせいか聞くのを忘れてた。なんとか連絡帳を開いたが、こんな事態に助けを呼べるのは先輩ぐらいしかいないのが哀しい。オカルト研究会のグループの中に同期のアサノさんの電話番号を見つけた。そういえば研究会に入ってすぐに交換していた。流石に彼女に助けてと電話するには恥ずかしいが、事態は緊急だ。メッセージで先輩に連絡取りたいと打てばいい。『とつぜんすいませま、体動くか無い先輩に助けて読んでください』文章は酷いが意味はなんとなく伝わるだろう。アサノさんがキタジマ先輩に連絡してくれればいいのだが‥‥。不安になりさらに送った。『早くにお願い』数分後、電話がかかってきた、アサノさんだ!通話を押したが、駄目だろれつが回らない、言葉にならない声でうなるだけしかできない、携帯からはアサノさんが何度も呼びかけてる、そしてむなしく電話は切れた。
校内ではアサノはキタジマ先輩を見つけるために走り回っていた。彼女もあの男の連絡先を知らなかったのだ。いた!「先輩!キタジマ先輩ー!」「ん!?どうしたアサノ」「これ見てください!‥‥電話したんですが、うなり声がするだけで全く応答ないんです」「‥‥午後の講義に出たいんだ、君が先に見に行ってくれ」「家知らないし!研究会の後輩が助けを呼んでるんですよ!?それでも副部長ですかっ!」
車を大急ぎで走らせ、アパートの玄関前に着いた。一緒について来たアサノが先輩を促す。ドアノブを回すと鍵はかかっていないようだ。先輩の後ろを付いてアサノが声をかける。「おじゃましまーす。大丈夫ですかー?」キタジマがアサノを手で制した。見ると、彼は青白い顔でこちらに向いて寝転んでいる。そして頭の後ろ側に何かが居る。険しい顔をした子供ぐらいの大きさの生き物が座っており、枕に手を掛けてじっと上から覗いている。「ひぃ!」「アサノ君、すぐ戻るからここにいたまえ。」「えっ!無理無理無理無理です!」先輩はさっさと出て行ってしまった。
もうろうとした視界の先にアサノさんと先輩がいる。まさか彼女まで来てしまうとは、こんな姿を見られたくなかった。取り敢えず来てくれたことに安堵したのだが、二人の様子がおかしい。玄関に入ったきり一歩も近づこうとしない。アサノさんはひきつった顔で仰け反り、そしてすぐに先輩は出て行ってしまった。話したいがうめき声しか出せなく、彼女は壁を向いたままこちらを全く見ようとしないし、微塵も動かない。一体どういう事だこれは?彼女から発せられる緊迫感がすごい。いよいよこの緊張感に耐え切れなくなった時、何やら木箱を持って先輩が戻ってきた。アサノさんを外に追いやり、やおら指で空を切ると、箱からお札のようなものを取り出して呪文のようなものを唱えている。それを聞いた瞬間、とてつもない睡魔に襲われ再び寝てしまった。
「彼、このまま放っておいて大丈夫なんですか?」「あゝ、もう問題ないだろう。無理に動かすと危険だしね。」「で、先輩、あれは一体全体なんなんですか!?」「あゝあれね、枕返しだよ、最近よく出る」「ええ、よく出るんですか?!枕をひっくり返す悪戯をする妖怪?でしたよね?」「それぐらいで済めばいいが、そんな生優しい者じゃないよ。夢を見ている間に枕を返されると魂が肉体に返って来れなくなるんだ。そうやって離れた魂を喰っちまうんだ。‥最近、携帯見ながら横向きに寝ちゃう奴が増えてるらしくてね、夜中、奴等が背後から近づき易くなったんだ。枕も引っ張りやすいしね。君も寝る時は気をつけたまえ」「私あんなの初めて見ました‥。彼、毎日先輩とつるんでますけど、前にもこんな事あったんですか?」探るような目でアサノが先輩を覗き込む。「アイツはね、特殊な体質なんだ。やたら怪奇を引き寄せるというか、好かれるというか、今までどうやって生きてこれたのか不思議なくらいにね。面白いだろ?だからあちこち連れ回している」アサノは、彼があんな状態になったのは半分この先輩のせいなんじゃと思ったが、あえて口には出さなかった。そしてこの男達について行けばもっと面白いものが見れるんじゃないかと期待に胸を膨らませ、決意するのであった。
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