
資料館で古い帳簿を整理する仕事をしている。
春先の雨が続いた頃、食べる量は変わっていないのに、体重だけが妙に増えた。立ち仕事だし、帰りは駅まで歩いている。気のせいだろうと思っていたが、ひと月で六キロとなると、さすがに笑えない。
同じ頃、収蔵庫に置いてあった保存食の缶詰が、何度か消えた。職員は私を含めて三人。誰かが夜食に持っていったのだろうと、警備員の久瀬さんは言った。
「鍵を持ってるのは、あなたと私だけですけどね」
そう言って、彼は笑わなかった。
館内の監視映像を調べることになったのは、缶詰の箱が丸ごと一つなくなった翌日だ。私は閉館後に残っていたので、自分が映っている時間も確認した。映像には、帳簿を運び、照明を消し、裏口から出ていく私が映っていた。変なところはない。
ところが、午前二時を回ったあたりで、収蔵庫の扉が開いた。
映像の私は、もう帰ったはずだった。なのに、同じ服を着た私が、倉庫の奥から出てきた。顔は下を向いたまま、棚から缶詰を取り、床に座って蓋を開ける。食べるというより、口へ流し込んでいるように見えた。
私はその夜のことを何も覚えていない。
「寝ぼけて戻ってきたんじゃないですか」
誰かが言った。私もそう思いたかった。だが、画面の中の私は、カメラの位置を知っているみたいに、食べ終わるたび少しずつ顔を上げた。
最後の缶を空にしたとき、私の背後に、もう一人立っていた。
濡れた髪を頬に貼りつかせた女だった。顔は映像の乱れでよく見えない。ただ、私の肩に顎を乗せ、私と同じ速さで口を動かしている。
再生を止めようとした瞬間、久瀬さんが画面に手を伸ばした。
「だから、ここで食べるなと言ったんです」
その言葉に、私は彼を見た。
久瀬さんは、館の古い記録に目を落としたまま続けた。
「この建物が避難所だった頃、食べ物を配る列に並べなかった人がいた。今も、食べる人の後ろに立つんですよ」
翌週、私は仕事を辞めた。体重は少しずつ戻った。あの映像は消去されたと聞いている。
ただ、先月、久瀬さんから短い連絡が来た。
新しい警備員が、夜中に倉庫で食べているところを見たそうだ。
その人は、一人で座っていたはずなのに、缶詰を二人分、きれいに空にしていたという。
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