
長編
壁⁉
匿名 4日前
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、また同じように壁にぶつかったの。
てっぺんが夕靄のなかに融けこんでしまうような、見るからに威圧的な壁なんだ。
「なんなんだよ、いったい……」
公介が呟くとまもなく、さっきの男がここでもやはり右足を引きずりながら、壁を背にして近づいて来たの。
私達を乗せた車は、目一杯の速度で引き返して来たんだから、この男が先回りすることなんて絶対にあり得ないはずだわ。
でも、現実に詰襟の男は目の前に立っていた。
「逃げてっ……」
私の叫び声を聞くまでもなく、公介は再び車の向きを変えて、全速力で逃げ出した、けど、もう、そのときには、私達は壁の呪力から逃れられない身になっているようだった。
どこへ、どのように車を走らせようとも、すぐ目の前に壁が現れてくる。
どんな細道へ入ろうとも、湖へ向かって疾走しようとも、すべてが無駄な努力だった。
壁は、私達を嘲笑うように眼前にそそりたち、そして壁を覆いつくしている蔦の蔭から、かならず、あの詰襟の男姿を現してくる。
ううん、ただ単に姿を現すだけではない。
血走った両眼が恐ろしいほどに爛々と光り、ひきつった口もとからは異様な唸り声が響いている。生きた心地がしないというのは、まさに、こんな瞬間をいうんだろうね。私達は、もう、どうしていいのか分からなくなってた。
そこへ、さらに追いうちをかけるように、
男は凄まじい顔つきのまま、口を大きく開けて
「がるるるるっ……」
と、叫びあげたの。
そればかりか、獰猛な虎のごとく高々と跳躍し、車の前部に乗り上がり、フロントガラスに向けて両手を叩きつけ、真っ赤な口を裂けんばかりに開き、巨大な牙を見せた。
死ぬんだ、と、とっさに私は思った。けど、公介は違った。
「おりろ、おりろ、おりろっ……」
髪の毛を逆立てて叫びあげ、車をいったんバックさせて男を振り落とすや、一気にギヤをロウに叩きこみ、アクセルを最大に踏み込んで、最後の手段とばかり、壁めがけて車を突進させたんだ。
「突き破るぞっ……」
公介がそう叫んだことだけは覚えているんだけど、車が本当に壁に激突したかどうかは、実をいうと、まるっきり覚えてないんだ。車疾走を開始してからは、異常に高まったアクセル音だけが頭のなかを占領し、ほかの記憶はまったくなくなってしまったの。目を覚ましたのは、病院のベッドの上でさ。
「気がついた……?」
といって笑顔を向けてくれた看護師さんの
話によれば、私達の載っていた車はガードレールに激突
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- おネエおつー環七
- なんだかオネエが語ってるような文章だと思ったの菜々氏
- ✕ギヤ→〇ギア ✕ロウ→〇ローイプシロン
- がるるるるって、、、匿名
- なんか喋り方が恐怖感をなくしている気がするのは俺だけか?柿