
長編
竹藪
匿名 2日前
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冬入りして寒々しい気温になった一昨日、大学のオカルト研究会の3回生、キタジマさんに仕事の助手を頼まれた。内容的には作業中に隣にいればそれで良く、1万円もいただけるとの事。実にありがたい。そして本日夕刻、講義が終わり、キタジマさんの運転で市街地から30分ほど離れた町外れに来た。ちなみに私は今年の春に入学した一回生。貧乏だしマジでモテないし背も低いしの三つの業を背負った汚れのない純潔ボーイである。道中、仕事の詳細を聞き出そうとしたが、他愛も無い話でお茶を濁され、流行りの漫画の話で盛り上がっていたら現場に着いてしまった。
南西の空がまだ少し明るいが東側に面したこちらの山側は真っ暗だ。キタジマさんが後ろから着いてこいと、懐中電灯片手に竹藪の中に分け入ったので急いで着いていく。足元は笹が生い茂り、周りは背の高い孟宗竹が続いていて、藪の奥に目を向けると完全な闇の黒。わずかな月明かりと懐中電灯の光が頼りだ。道と言えるのか疑わしい獣道を何を目印に進んでるのか、キタジマさんは脇目も振らずどんどん進んでいく。何度か来た事のある道なのかも知れない。肺が悲鳴を上げ出したが、こんな所に一人で置き去りにされたらたまったものじゃないので、根っこにつまづこうが竹の枝が顔にぶつかろうが構わず必死に着いて行った。
もうヘトヘトになるぐらい竹藪の中を歩き続け、東西南北も見失い、完全に陽も落ちて、いい加減目的地はまだかとキタジマさんに言いかけたその時、後ろを歩く私は片手で制された。こちらには少しも振り向かず真っ暗な闇の先をじっと眺めている。一歩も動くな。そんな気配が周囲に満ちた。あまりの静けさに山に入ってから生き物の気配が全く感じられない事に今更ながら気がついた。数十秒たっただろうか、おもむろに私に振り返り、道の端にうながされ、並んで立った。先輩はふところから半紙を2枚取り出しそれぞれの足元の1mほど先の地面に置いた。呪文のような文字が書かれている、そして懐中電灯を消した。一気に辺りは完全な闇に包まれた。見上げた空だけが月明かりでかすかに明るい。いよいよずっと謎だった仕事が始まるようだ、こんな山奥で、、。「何が、」と口を開けかけた瞬間、キタジマさんの見つめる先、道の奥の奥、闇の中に何かがいる。真っ暗でほとんど何も見えないが、何かが確実にこちらに近づいてきている事だけはわかる。野犬か猪か、どちらにしろこんな場所で獣に遭遇するのはヤバい。そして逃げよう
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