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長編

風と木の神社

匿名 2021年12月27日
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これは本当に起きた話です。 アルバイトで国勢調査の仕事をしていた私は、ある神社の社務所に調査に行くことになりました。 家からさほど離れていませんでしたが、こんなところに神社が?と思うような場所にありました。 というのも、多車線の国道沿いで、コンビニやカラオケが並ぶ繁華街。 その歩道の横に突如現れたような細い道を、一本奥に入った突き当りににあるのです。 細い道を奥に進むにしたがって、左右がビルのコンクリートから青々とした木々に変わり、その先に古めかしい鳥居が現れる。 それは自分がまっすぐ異次元に向かっているようでした。 初めて見る神社。 林のような木々にぐるりと囲まれ、古めかしい鳥居に木造の本殿。 すべてが木、木、木。 木の気配しか感じられない古い神社。しかも何やら暗い雰囲気。 晴れた昼間なのに、なぜこんなに闇を感じるのか。 もしかしたら神社と私の相性が悪いのかな? と思いましたが、とりあえず作法にのっとり、スマホなどの電子機器の電源を切り鳥居の前で一礼。 参道の左側を通り、参拝前のお清めのため御手水舎(おちょうずや)に向かいます。 御手水によるお清めは、肉体的にも精神的にも大切なものです。 手水でお清めをする時に、口の中を水ですすぐ作法がありますが(水が不潔だと思う人は、すすぐ振りだけでよいそうです)これは、その神社と自分の相性をチェックするのにも使えます。 手水の味が甘ければ相性の良い神社、苦ければ相性の悪い神社。 相性が悪いとわかれば、神様が拒否なさっているということなので早々に退出するべきなのだそうです。 しかし手水舎の前に行って私は凍り付きました。 龍の形をした水口からは全く水が出ておらず、石の手水台にたまった水は灰色に濁り、水の表面を吐き気がするような腐った膜が覆っています。さらにそこに綿菓子をまぶしたように、極細の蜘蛛の糸がかぶさっています。 ふと気づくとその左側に1メートル弱の小さな池があるのに気が付きましたが、そこも同様、腐った水で悪臭が漂っていました。 こんな不潔なものはここしばらく見たことがありません。 お清めの場なんて冗談もいいところ。 ここが神社?神様をお迎えするところ? 宮司さんは何をやってるの?氏子の人たちは?全く誰も来ていないと言うこと? そう思った私ですが、その直後に奇妙なことに気づきました。 さらにその横に並ぶように、大きな真新しい茅(ちがや)の輪くぐりの輪が置かれていたのです。 汚れた手水舎の横にお清めのための茅の輪が置かれていることの違和感。 それにこの暗い気配。 この神社は普通でない。 私は仕事も忘れて逃げ出そうと思いました。 嫌な所には無理に行かなくてもいい、と言われていたのです。 しかしその時に、ザッ、ザッと私を現実に引き戻す音が聞こえてきました。 宮司さんです。 手水舎の不潔さにまったく不似合いな、輝くような白い着物と浅葱色の袴。白い足袋。 その姿で宮司さんは、竹ぼうきで落ち葉の掃除をしているのです。 良かった。助かった。 宮司さんに国勢調査の書類を渡せばここでの仕事は終る。 私は宮司さんに挨拶をして、書類の書き方など簡単な説明をし、また取りに来るから留守の時は社務所の郵便受けにでも入れておいてください、と伝えました。 とても温厚な宮司さんで、私は幾分か緊張がほぐれていきました。 でもその時に気付きましたが、その社務所もまたゾゾッとするほど気味が悪いのです。 というのも社務所は竹垣で覆われてほとんど見えないのですが、その竹垣がボロボロに朽ちて斜めに傾いて、今にもこちらに向かって倒れてきそうでジェンガもかくや、といった感じなのです。 早く出たい!と心が叫びましたが、宮司さんが「どうぞ」と本殿を指さします。 お参りして帰れ、ということなのでしょう。 本来なら即座に退出すべきなのですが「ここは気味悪いので嫌です」などと言えません。 仕方がない。なるべく神様を怒らせないように丁寧に、すばやくお参りして帰ろうと思い本殿に向かいました。 本殿に向かう参道は5メートルもないほど短いものでしたが、前になかなか進めません。 というのも強烈な風が吹いてきて、体を持って行かれそうになるのです。 そして足元のぬかるみ。 嫌な予感は的中しました。 私は、嫌な場所にいると必ず「ギャアギャア」と夕方のカラスのような鳥の声が聞こえ「ピー」という耳鳴りがし、足元にぬかるみを感じるのです。 吹き飛ばされそうな強い風は初めてですが、鳥の声と耳鳴り。 乾いた土のはずなのに、泥を踏んでいるような気味の悪い感触。 怖い、怖い。 5メートルの距離を10分かけて歩いたように感じ、やっと本殿について見上げると潰されそうな威圧感でした。 早く帰ろう。 倒れそうな強風にあおられながら宮司さんに挨拶をすると、宮司さんはかわらず掃除を続けているので、真面目な方だな。それなのになぜ、御手水舎はあんなに不潔なのだろう。 と不思議に思いながら私は神社を後にしました。 こうして再び国道に戻った私は、ぽかぽか暖かい陽光を感じほっとしたのを覚えています。 その足でコンビニに向かい、買ったコーヒーは至高の味でした。 そうして数日後、当然、いやだ、いやだ!と思いながら再び書類を受け取りに神社に行くことに。 幸いなことに書類は、社務所の郵便受けに差し込まれていたのでそのまま受け取って、再び暴風の吹く中を国道に向かって脱兎のごとく走りました。 今、思い出しても不思議です。 どうしてあの神社の鳥居の中だけに暴風が吹くのか。 そしてあの宮司さんは、どうしてその暴風の中で落ち葉掃きをすることができたのか、と。

後日談:

  • 実話です。作者は仕事である神社を訪れますが、そこで不気味な不思議な体験をします。

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