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リョウメンスクナ
長編 emoji_events 殿堂入り

リョウメンスクナ

匿名 2013年1月8日
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俺、建築関係の仕事やってんだけれども、先日、岩手県のとある古いお寺を解体することになったんだわ。今は利用者もないお寺ね。 んでお寺ぶっ壊してると、同僚が俺を呼ぶのね。「○○、ちょっと来て」と。 俺が行くと、同僚の足元に黒ずんだ長い木箱が置いてあったんだわ。 「何これ?」 「いや、何かなと思って……本堂の奥の密閉された部屋に置いてあったんだけど、ちょっと管理してる業者さんに電話してみるわ」 木箱の大きさは2メートルくらいかなぁ。相当古い物みたいで、多分木が腐ってたんじゃないかな。 表に白い紙が貼り付けられて何か書いてあるんだわ。 凡字のような物も見えて相当昔の字と言う事はわかったけど、もう紙もボロボロで何書いてるかほとんどわからない。 かろうじて読み取れたのは、 「大正? 年? 七月? ノ呪法ヲモッテ、両面スクナヲ? 二封ズ」 的な事が書いてあったんだ。 木箱には釘が打ち付けられてて開ける訳にもいかず、業者さんも「明日、昔の住職に聞いてみる」と言ってたんで、その日は木箱を近くのプレハブに置いておく事にしたんだわ。 んで翌日。解体作業現場に着く前に業者から電話がかかってきて、 「あの木箱ですけどねぇ。元住職が絶対に開けるな! って凄い剣幕なんですよ……なんでも自分が引き取るって言ってるので、よろしくお願いします」 俺は念のため、現場に着く前に現場監督に木箱の事を電話しておこうと思い、 「あの〜昨日の木箱の事ですけど」 「ああ、あれ! お宅で雇ってる中国人(留学生)のバイト作業員2人いるでしょ? そいつが勝手に開けよったんですわ! とにかく早く来てください」 嫌な予感がして現場へと急いだ。プレハブの周りに5〜6人の人だかり。例のバイト中国人2人が放心状態でプレハブの前に座っている。 「こいつがね、昨日の夜中に仲間と一緒に面白半分で開けよったらしいんですよ。で、問題は中身なんですけどね……ちょっと見てもらえます?」 単刀直入に言うと、両手をボクサーの様に構えた人間のミイラらしき物が入っていた。 ただ異様だったのは、頭が2つ。シャム双生児? みたいな奇形児がいるじゃない。多分ああいう奇形の人か、作り物なんじゃないかと思ったんだが……。 「これ見てね、ショック受けたんか何か知りませんけどね、この2人何にも喋らないんですよ」 中国人2人は俺らがいくら問いかけても放心状態でボーっとしていた(日本語はかなり話せるのに)。 あと言い忘れたけど、そのミイラは「頭が両側に2つくっついてて、腕が左右2本ずつ、足は通常通り2本」という異様な形態だったのね。俺もネットや掲示板とかで色んな奇形の写真見たことあったんで、そりゃビックリしたけど「あぁ、奇形か作りもんだろうな」と思ったわけね。 んで、例の中国人2人は一応病院に車で送る事になって、警察への連絡はどうしようかって話をしてた時に、元住職(80歳超えてる)が息子さんが運転する車で来た。 開口一番、 「空けたんか! 空けたんかこの馬鹿たれが! しまい、空けたらしまいじゃ……」 俺らはあまりの剣幕にポカーンとしてたんだけど、住職が今度は息子に怒鳴り始めた。 岩手訛りがキツかったんで標準語で書くけど、 「お前、リョウメンスクナ様をあの時、京都の○○寺(聞き取れなかった)に絶対送る言うたじゃろが! 送らんかったんかこのボンクラが! 馬鹿たれが!」 ホント80過ぎの爺さんとは思えないくらいの怒声だった。 「空けたんは誰? 病院? その人らはもうダメ思うけど、一応アンタらは祓ってあげるから」 俺らも正直怖かったんで、されるがままに何やらお経みたいの聴かされて、経典みたいなのでかなり強く背中とか肩とか叩かれた。結構長くて30分くらいやってたかな。 住職は木箱を車に積み込み、別れ際にこう言った。 「可哀想だけど、あんたら長生きでけんよ」 その後、中国人2人の内1人が医者も首をかしげる心筋梗塞で病室で死亡、もう1人は精神病院に移送、解体作業員も3名謎の高熱で寝込み、俺も釘を足で踏み抜いて5針縫った。 まったく詳しい事はわからないが、俺が思うにあれはやはり人間の奇形で、差別にあって恨みを残して死んでいった人なんじゃないかと思う。 だって物凄い形相してたからね……その寺の地域も昔部落の集落があった事も何か関係あるのかな。無いかもしれないけど。長生きはしたいです。 <後日談> すんません。直前になって何か「やはり直接会って話すのは〜」とか言われたんで、元住職の息子さんから「じゃあ電話でなら、話せるとこまでですけど」という条件の元、詳しい話が聞けました。 時間にして30分くらい結構話してもらったんですけどね。なかなか話好きなオジサンでした。要点を主にかいつまんで書きます。 息子「ごめんねぇ。オヤジに念押されちゃって、本当は電話もヤバイんだけど」 俺「いえ、こっちこそ無理言いまして。アレって結局何なんですか?」 息子「アレは大正時代に見世物小屋に出されてた奇形の人間です」 俺「じゃあ、当時あの結合した状態で生きていたんですか? シャム双生児みたいな?」 息子「そうです。生まれて数年は岩手のとある部落で暮らしてたみたいだけど、生活に窮した親が人買いに売っちゃったらしくて。それで見世物小屋に流れたみたいですね」 俺「そうですか……でもなぜあんなミイラの様な状態に?」 息子「正確に言えば、即身仏ですけどね」 俺「即身仏って事は、自ら進んでああなったんですか?」 息子「……君、この事誰かに話すでしょ?」 俺「正直に言えば、話したいです」 息子「良いよ君、正直で(笑)。まぁ私も全て話すつもりはないけどね……アレはね、無理やりああされたんだよ。当時、今で言うとんでもないカルト教団がいてね。教団の名前は勘弁してよ。今もひっそり活動してると思うんで」 俺「聞けば誰でも、ああ、あの教団って分りますか?」 息子「知らない知らない(笑)。極秘中の極秘、本当の邪教だからね」 俺「そうですか」 息子「んで、どうも最初からそのシャム双生児が生き残る様に、天獄は細工したらしいんだ。他の奇形に刃物か何かで致命傷を負わせ、行き絶え絶えの状態で放り込んだわけ。奇形と言ってもアシュラ像みたいな外見だからね。その神々しさ(禍々しさ?)に天獄は惹かれたんじゃないかな」 俺「なるほど」 息子「で、生き残ったのは良いけど、天獄にとっちゃ道具に過ぎないわけだからすぐさま別の部屋に1人で閉じ込められて、餓死だよね。そして防腐処理を施され、即身仏に。この前オヤジの言ってたリョウメンスクナの完成ってわけ」 俺「リョウメンスクナって何ですか?」 神話の時代に近いほどの大昔に、リョウメンスクナという2つの顔、4本の手をもつ怪物がいたという伝説にちなんで、例のシャム双生児をそう呼ぶ事にしたと言っていた。 俺「……そうですか」 息子「そのリョウメンスクナをね、天獄は教団の本尊にしたわけよ。呪仏(じゅぶつ)としてね。他人を呪い殺せる、下手したらもっと大勢の人を呪い殺せるかも知れない、とんでもない呪仏を作った、と少なくとも天獄は信じてたわけ」 俺「その呪いの対象は?」 息子「……国家だと、オヤジは言っていた」 俺「日本そのものですか? 頭イカレてるじゃないですか、その天獄って」 息子「イカレたんだろうねぇ。でもね、呪いの効力はそれだけじゃないんだ。リョウメンスクナの腹の中にある物を入れてね……」 俺「何です?」 息子「古代人の骨だよ。大和朝廷とかに滅ぼされた『まつろわぬ民』いわゆる朝廷から見た反逆者だね。逆賊。その古代人の骨の粉末を腹に入れて……」 俺「そんなものどこで手に入れて!?」 息子「君もTVや新聞とかで見たことあるだろう? 古代の遺跡や墓が発掘された時、発掘作業する人たちがいるじゃない。当時はその辺の警備とか甘かったらしいからね。そういう所から主に盗ってきたらしいよ」 俺「にわかには信じがたい話ですよね」 息子「だろう? 私もそう思ったよ。でもね、大正時代に主に起こった災害がこれだけあるんだよ」 1914(大正3)年:桜島の大噴火(負傷者9600人)、秋田の大地震(死者94人)、方城炭鉱の爆発(死者687人)。 1916(大正5)年:函館の大火事。 1917(大正6)年:東日本の大水害(死者1300人)、桐野炭鉱の爆発(死者361人)。 1922(大正11)年:親不知のナダレで列車事故(死者130人)。 そして1923年(大正12年)9月1日:関東大震災、死者・行方不明14万2千8百名。 俺「それが何か?」 息子「全てリョウメンスクナが移動した地域だそうだ」 俺「そんな! 教団支部ってそんな各地にあったんですか? と言うか偶然でしょう(流石に笑った)」 息子「俺も馬鹿な話だと思うよ。で、大正時代の最悪最大の災害、関東大震災の日ね。この日、地震が起こる直前に天獄が死んでる」 俺「死んだ?」 息子「自殺、と聞いたけどね。純粋な日本人ではなかったと言う噂もあるらしいが」 俺「どうやって死んだんですか?」 息子「日本刀で喉をかっ斬ってね。リョウメンスクナの前で。それで血文字で遺書があって……」 俺「なんて書いてあったんですか?」 『日 本 滅 ブ ベ    シ』 俺「……それが、関東大震災が起こる直前なんですよね?」 息子「そうだね」 俺「偶然ですよね?」 息子「偶然だろうね」 俺「その時、リョウメンスクナと天獄はどこに?」 息子「震源に近い相模湾沿岸の近辺だったそうだ」 俺「……その後、どういう経由でリョウメンスクナは岩手のあのお寺に?」 息子「そればっかりはオヤジは話してくれなかった」 俺「あの時、住職さんに『なぜ京都のお寺に輸送しなかったんだ!』みたいな事を言われてましたが、あれは?」 息子「あっ、聞いてたの。もう30年前くらいだけどね、私もオヤジの後継いで坊主になる予定だったんだよ。その時に俺の怠慢というか手違いでね、その後、あの寺もずっと放置されてたし……話せることはこれくらいだね」 俺「そうですか、今リョウメンスクナはどこに?」 息子「それは知らない。と言うか、ここ数日オヤジと連絡がつかないんだ。アレを持って帰って以来、妙な車に後つけられたりしたらしくてね」 俺「そうですか。でも全部は話さないと言われたんですけど、なぜここまで詳しく教えてくれたんですか?」 息子「オヤジがあの時言ったろう? 可哀想だけど君たち長生きできないよってね」 俺「……」 息子「じゃあこの辺で。もう電話しないでね」 俺「……ありがとうございました」

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