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長編

夜の白出沢遡行

しもやん 3日前
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ストし、慎重にもときた道へ引き返す。この霧だと一度迷ったが最後、正規ルートに戻ってこられる可能性は低い。すでに体力を消耗し、雨によって体温も下がっている。真夏の高峰で低体温症になって死ぬ山屋を俺は見下していたけれども、このときばかりは事情がわかった。震えが止まらない。身体機能が目に見えて低下していくのがわかる。  どれくらい登っただろうか。たぶん19:30くらいだったろうか。俺は幻覚を見始めた。それまでははるか遠くに見えていた穂高岳山荘の灯りが、不意に目の前に移動してくる。まばたきをすると山荘は姿を消している。するとまたもや山荘が数10メートル先に見えた。近づいてみると、それは単なる巨岩だった。  本格的にまずいな。携行していたチーズをかじりながら、まだそんなことを考える余裕は残っていた。雨は止んだけれども、そのぶん霧の濃さがますますひどくなり、岩に描かれたマークを追うのが非常に困難になってきた。ビバークを考えなかったわけじゃないが、傾斜がきつすぎる。とてもテントを展開できるスペースはないし、そのまま横になれば風と雨で低体温症になるおそれがあった。白出のコルまで登りきるしかない。  正確な時刻はわからないが、たぶん20:30くらいだったと思う。永遠にこの地獄が続くような錯覚と戦ってた俺の目前に、濃霧から登山パーティがまったくだしぬけに現れた。彼らは幻覚にしては強烈なリアリティがあった。手を伸ばせば触れられるのではないかと思ったほどだ。  道はたいへん狭く、すれちがうにはどちらかが脇へ避けねばならない。俺はばかげていると思いつつも、山側の岩に背中をつけて道を開けた。すると先頭のおっさんが顔を上げて、「どうもすいません」と確かにしゃべった。  ここで初めて俺は彼らの姿をしっかりと観察した。べつにザクロみたいに頭が割れているとか、身体のあちこちが欠損しているとか、そんなことはなかった。どう見ても生きている人間だった。遭遇した時間が昼間なら、まったく不自然な点はなかっただろう。ところがいまは夜の20:00台で、濃霧という最悪の天候である。  先頭のおっさんとすれちがうと、大人数のパーティだったらしく、次から次へと登山者が降りてくる。一寸先は闇の濃霧から、忽然と人間が吐き出されてくる。みんなどこにでもいるなりのおっさんおばさんだった。ただ人数が異常だった。冗談じゃなく無限にいるんではないかと思うほど、行列が途切

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