
中編
夏の思い出
匿名 2024年2月12日
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中1の夏休み、幼馴染のA、B、Cと4人で肝試しをやった。
通ってた学校の校舎の目の前、グラウンドを挟んだ木造の旧校舎で。この学校に入学してからずっと、旧校舎なんて絶対なんかあるじゃん、いつか入ってみようってワクワクしながらこの時を待ってた。
もちろん旧校舎の正面玄関は閉鎖されて普通は入れないんだけど、夏休み前にあらかじめ下調べをしておいた。裏手に鍵のかかっていない外開きのドアがあるのだ。扉の横に水道があるのを見ると、グラウンドで怪我してもすぐに駆け込める保健室か何かだったのかもしれない。
そして8月半ばの夜、20:00頃に4人で正門前に集まった。
お調子者のAは本当に行くのかとニヤニヤしている。イケメンのBはこれで何かあれば女子との話のネタになるとほざく。
Cはかなりのビビリなので、お前ら置いてくなよ、絶対はぐれんなよ、と繰り返している。
蒸し暑い夜だった。タオルを首にかけ、懐中電灯とスマホ、お菓子なんかを詰めたリュックを背負って俺たちは旧校舎を目指した。
まず裏手に回り例のドアのノブを回す。ガチャッと音がして簡単に開いた。思った通り、暗い室内に白いベッド、医者が座るような丸椅子、が残っている。ここの主だった先生が私物は全て持っていったのだろう。全体にがらんとしている。
懐中電灯で足元を照らしながらゆっくり進む。壁にぼろぼろの健康だよりやポスターがちょっと残っているくらいで、あとは何も無い。
まあ最初はこんなもんか。俺たちはそのまま薄暗い廊下に出た。
なんかさ、思ってたより普通じゃね?とA。
まあなあ、元々ただの学校だしな、とB。
なんか聞こえない?気のせい?とC。
気楽に行こう気楽に、探検だから、と俺。
廊下の端にある階段を登り二階に上がる。ここは教室が並んでいて、窓ガラスからは月明かりが差し込んでいる。
雰囲気あるね、とAが茶化す。
2年1組と書かれた教室に入った時、Aが手で弄んでいた懐中電灯を床に落としゴツッと鈍い音がした。ひっ、と悲鳴を上げたのはもちろんCだ。
お化けに気づかれちゃうよ、と笑いながら懐中電灯を拾い上げた時。
か え し て
一瞬にして笑いが止んだ。
辺りを照らす。
そこにはっきりと浮かび上がったのは体操服姿の女の子だった。
かえして、かえして、ごめんなさい、いたい、かえして、ごめんなさい…
小さな声だがやけにはっきり聞こえた。俺たちは教室を飛び出し廊下を一目散に走った。
なんだよあれ、とみんなが思ったけど口にはできなかった。頭が混乱していた。
目の前には3階に続く階段がある。どうする?4人とも顔を見合わせたが、ここまで来たら引き下がれないのが中学生男子である。
早足で階段を上がり廊下を進むと、3年生が使っていた階のようだった。
3年1組の教室に入り、バクバクする心臓を押さえて懐中電灯を向ける。誰もいないし何も聞こえない。やっと呼吸が落ち着いてきて、さあ出よう、次だ、と踵を返した時。
ぴーーんぽーーーんぱーーんぽーーーん
驚きを通り越してもう3人とも半泣きだった。ちなみにCはガチで泣いてた。
下校時刻となりました
校内に残っている生徒は速やかに下校しましょう
ごく普通の女性の声なのがめちゃくちゃ怖かった。こんな時間に誰が、しかも使われてない校舎で、もう頭の中パニックだった。
バカな中学生男子ももう耐えられない。教室を飛び出してわあわあ叫びながら廊下を突っ走った。Cも置いてかれる恐怖と元々の性格でうわあああああって叫びながら全力で俺たちについてきた。
下校時刻、下校時刻と、下校、下校、なりました、帰りましょう、帰りましょう、帰りましょう、下校、時刻と、帰りましょう、下校
校内放送は狂ったように同じ言葉を何度も何度も繰り返している。
一階までノンストップで走り、階段を転げ落ちる勢いで駆け降り、入ってきた保健室に飛び込む。出られる!その瞬間
帰しませーーーーーーーーん
低い男の声だった。開けっぱなしのドアから外に飛び出し正門目掛けて一目散に走った。
夏休みが明けてすぐ俺は高熱を出した。
40度近い熱が1週間経っても下がらない。
A、B、Cの3人がちょくちょく大丈夫か、と生存確認の電話をくれていたのが支えだった。あの夜の出来事はなんとなく触れづらくて、4人とも避けていた。相変わらず昼過ぎまで自分の部屋で熱にうなされていたある日、パートに出ていた母から電話が来た。
「起きてる?もう帰るけど、お昼食べられそう?」
「わかんねえわ、なんも食いたく無いし。適当に自分でやるよ」
「そう?分かった、何かあれば」
ありがと、と伝えて電話を切ろうとした時、
「ていうかあんた…彼女さん?」
「は?」
「お見舞い?」
「??なんの話?」
「さっきからずっと聞こえてるのよ。女の子の声で。
家に帰して、帰して、帰してって」
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