
長編
山岳遭難体験記
しもやん 6時間前
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わたしは25歳くらいから、かれこれ15年近く登山を続けている。
それだけやっていれば、命の危険を感じるような修羅場を潜り抜ける破目に陥るものだ。
これはつい最近、晩秋の鈴鹿山脈で実際に体験した出来事である。
* * *
このところ仕事が忙しく、毎日終電帰りが続いていた。どうしても早起きが億劫になり、出発は10:30という異例の遅さであった。
まともな登山者なら行程を短縮し、日没前までに降りてくるよう取り計らうのだが、あいにくわたしはまともな登山者ではない。日没したらしたでかまわない、夜間ハイクすればよかろうということで、のんびり出発した。
行程は岐阜県時山集落の烏帽子岳登山口を基点とし、烏帽子岳→三国岳→鞍掛峠手前のピーク→登山道のないバリエーションルートを経由して滋賀県側の林道へ着地→滋賀県側の三国岳登山口→阿蘇谷経由での下山、を考えていた。
バリルートの踏破に想像以上の時間をとられ、滋賀県側の登山口から登り始めたのは15:45であった。16:40ごろ、ようやく標高800メートル付近の稜線に達するも、トラブルが出来する。阿蘇谷の下山ルートがどうしても見つからないのだ。
過去に阿蘇谷は登りも下りも通過しているし、下山の基点には手作りの簡素な指導標があったはずだ。それを目当てにしていたのがいけなかった。次第に闇に包まれ始めた山中で、幅数センチメートル、長さ10センチメートル程度の指導票を見つけようという魂胆にそもそも無理があった。
かすかな記憶を辿りながら、何度も下山口を探して周辺をうろついたものの、どうしてもルートが見つからない。わたしは焦り始めていた。阿蘇谷ルートは通る者とて絶えて久しい、半廃道のような登山道である。日没後の夜間ハイクには慣れているものの、沢筋のルートは渡渉が多いため夜間には道をロストしやすい。過去に沢ルートの夜間ハイクで死ぬような目に何度も遭っている記憶がよみがえり、一刻も早く下山したいという焦燥感だけが募っていく。
わたしは登山用GPSとして〈ジオグラフィカ〉というアプリケーションを使用している。国土地理院が発行している地形図をベースに、現在地をプロットしてくれる非常に有用なツールだ。地形図さえ読めれば事実上、現在地がリアルタイムでわかるのだから遭難はありえない。このときはそう思っていたし、いままでジオグラフィカを使って何度も窮地を脱
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- 臨場感溢れる文章と自分の徹底した客観視が相まって面白かった魂観
- 文才に尊敬と嫉妬です。1人で寝れない