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長編

青い絵

ぽにょ 2017年8月17日
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私はA県の芸術系の短大に通っていました。 これはその短大2年の時の話です。市街からはなれた小高い丘の上にその短大はありました。 周りは田んぼで自然豊かとは言い切れないけど、そこそこ自然があって気持ちがいいキャンパスでした。 私は2年のときの映像系のサークルに入りました。 3分程度の作品を作ったりして楽しんでいるサークルで、当時映画で流行っていた、リングなど髪の長い女の人が出てくるのホラーな映像を作っている人もいました。それを大学の講堂で上映会をして楽しんでいるサークルです。 サークルの部屋は大学の西側にあるプレハブ小屋の2階にありました。部屋は6畳程の広さ。サークル部屋にはたくさんの小道具が置いてあり、ごちゃごちゃとゴミのような、狭い空間にものが転がっていて居心地はとてもいいとはいえません。 ベットも置いてあり、寝泊まりする人もいたようですが、ここのプレハブには幽霊が出るという噂もありました。 大学も夏休みに入り帰省する生徒もいる中、私はサークルの仲間と一緒にサークル部屋の片付けに加わる事にした。10人程の人数で1日で一気に片付けてしまおうということで、とりあえず不要なものを外に出して掃除することにした。部屋の中にあったものを出した廊下はゴミだらけになりました。 「いるものあったらもっていっていいよ」 一人暮らししていた私はなにか使えるものはないかといろいろ探してみましたが、特に使えるものはありませんでした。 「ゴミばかりだね」 さすが芸術系の大学だけあって絵を描く為の道具がいくつか外に出されていた。 絵を描く道具があったのでこれなら使えるかな?と思って目についたのが油彩のキャンバスだった。 ノートパソコンを開いたぐらいの小さなキャンパスだったので丁度いいかなと思った。 表は青い絵の具が一面塗られていて、絵は書かれていなかった。 油彩では描かれた絵の上に絵の具を一面塗って、また別の絵を描く事は良くある事だし、特に不思議にも思わなかった。でも、裏から見えるキャンバスの木枠の古さだけがちょっと違和感を感じた。 どうみても、最近の品でない事が伺えた。 古い大学だからこういうものがあっても別におかしい事でもないので、そのときは特になんとも思わなかった。 「これ使えそうだから後で絵を描くのに使おうかな?」と同じサークルの友人に聞いてみた。 「いいじゃん、まだ使えるよ。もっていきな。」 そのキャンバスを端のほうへ捨てられないように置いておいて、そのほかのゴミは大学内の庭にまとめて持って行った。他のサークルから出るゴミもそこに集められていたが、一緒にどこかに片付けられるのだろう。 キャンバスは入れる袋もなく、そのまま手にもって持ち帰る事にした。 一人暮らしのアパートはとても昭和の感じがして、共同トイレ・共同洗濯機。アパートに住んでいるのは僕と、隣の部屋には話をした事もない同じ大学の生徒。あと中年の夫婦。 コンクリートをむき出しのアパート。空いた部屋にはカーテンが付けてなく、夜は中を見たくないがアパートの奥にあるトイレへ行くには必ず通る度に目がいってしまう。夜中はできるだけトイレへ行きたくはない。 といっても、住んで一年、特に霊感があるわけでもなく、何事もないし、感じないので怖い事も起きた事がなかった。 帰って来て「ただいま」を言う相手もいない部屋の電気を付け、入ってすぐのキッチンのガラス扉にキャンバスを裏返しに立てかけた。 僕がいる部屋からは、ぼやけた感じでくもりガラス向こうのキャンバスが見える。 4畳半の小さな部屋。 キャンバスの利用価値を探すの後にしようと、テレビもない部屋でラジオを聞きながら夕飯を軽くすませて銭湯へ行き掃除で誇りだらけになった体を洗い流した。 帰って来てパジャマを着て寝る事にした。ベットで布団に入って電気を消して寝た。 気がつくと、足下に白い服を着た髪の長い人が立っていた。 髪の毛が前に垂れ下がっていて、顔がよく見えない。 はっとして、体を動かそうとしたけど体が動かなくなっていた。 金縛りにかかっていた。 恐怖で声をあげたいが、声も出ない。 また気がつくと、今度は胸の上に立っていた。ずっとこちらを見ているのがわかる。 近くに来たせいで顔が見えたけど、下目でたった立ったままこちらを見ている。 そのまま首を絞めるように首に手を当ててきた。 くっ、苦しい。 たすけて、このままじゃ… とても長い時間に感じた。どうがんばっても体が言う事をきかない。身動きが取れない。 おもいきって右側に体を傾けて、上に乗っているものを振り落とすようにしてみた。 その瞬間暗闇の中で、体がベットから落ちた。 まわりに人はいなかった。辺りを見回すのも怖くて、すぐさま電気の紐を引っ張り、明かりを付けて布団に潜り込んだ。こんどは仰向けにならないように横になって、朝が早く来ますようにと祈りながら 縮こまっていた。 気がつくとそのまま寝てしまっていて、部屋に朝陽が差し込んでいた。 どう考えてもあのキャンバスしか原因が思いつかなかった。 あのキャンバスを見るのも怖かったが、その日バスに乗って大学までそのキャンバスを捨てに行った。静かな大学。夏休みのせいで人がいない。 庭に捨てられた大量のゴミの中に、そのキャンバスを置いて来た。

後日談:

  • いまではもうあのサークルの部屋があるプレハブもないし、昭和を感じさせるアパートも取り壊された。

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