
中編
八甲田山の優しい軍人さんと高熱
けいすけ 2023年6月26日
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このお話は幼い頃に体験した出来事です。
皆さんは明治時代の八甲田山にて発生した悲しい出来事はご存知ですか?
…訓練中の軍人さん達が数百名も寒空の下で亡くなられたのです。
私が小学二年生くらいの頃、心霊番組を見ていると八甲田山で亡くなられた方々が写った映像が流れました。
銅像の土台の真横を行進する軍人さん達がハッキリ視えました。
真冬の雪山で凍えて亡くなられた…。
その苦しさは想像出来ました。
番組を見ていた季節は冬の寒い日でしたからね。
チラつく雪を窓から見ていました。
…その時の私はインフルエンザにかかり、高熱を出していました。
行進する軍人さん達と、高熱に浮かされる自身の身体の辛さでハッキリと覚えていたのです。
「お母さん…兵隊さん達可哀想だからお布団に入れてもいい?」
「きっと大丈夫だよ…。神様がちゃんと温かい処に連れて行ってくださるからね。」
…と、母に優しく頭を撫でられた所で私は眠りに落ちました。
…高熱で苦しい身体がいきなりスウッと楽になり身体が軽くなるような変な感覚を覚えながらの眠りでした。
その時でした。
夢の世界か現実か分からない世界にいたのか謎ですが、水子の姉と共にとある人物と出逢ったのです。
布団の枕元に心配そうな表情で姉が座り私の頭に手をかざして光を放っていました。
熱を下げようと頑張ってくれていました。
しかし…熱が下がらず苦戦していました。
「どうしよう…このままじゃ…。」
高熱が下がらない幼い私を心配して涙を流す姉…の前にいきなり光が現れたのです。
「えっ…?!」
…姉と仲良く驚いて固まると、光の中から兵隊さんが現れました。
「いきなり周りが光ったかと思えば…ここは?」
「…これはどうしたことか?!」
若い男性と四十代くらいの兵隊さんでした。
呆気に取られている兵隊さん達はやがて寒空の雪山では無い暖かい空間に居ることに気がついたのです。
姉は成程…と、納得した様子で兵隊さん達と話を始めました。
「寒空を歩いていて動けなくなり、意識が遠のいたのだ。…暫く真っ暗な空間を歩いていると光が見えたので歩いてみたら此方へ出たのだ。」
「…雪山に居たかと思えばいきなり娘さん達が二人もいるし…。」
…私の頭を撫でながら姉は優しい表情で兵隊さん達に言いました。
「高熱に浮かされながら妹は…眠りにつく前に彷徨う皆さんの姿を撮影された映像を見ながら涙を流したんです。兵隊さん達もお布団に入れて差し上げたい…と。」
その言葉に兵隊さん達は穏やかな表情をしながら頷いていました。
「ウーム…どうりで優しい雰囲気の暖かい空間なわけだ。これはお嬢ちゃんに礼をしなくては。」
「…これはいけない!中々熱が下がらないばかりか危険だ。」
「熱を下げようにも中々下がらなくて…。」
…私の容態に気が付いた兵隊さん達が顔を見合わせると私の頭を撫でたのです。
「…自分にも…君と同じ位の妹がいた。妹も高熱を出して…君と同じ位の年で……。」
「それは辛いな…。ワシにもお嬢ちゃん位の娘がいるんだ。」
口々に言いながらそれぞれ頭を撫でると、優しい光を当ててくれました。
「優しい心遣いの礼だ。妹さんは元気になるから安心しなさい。」
「お嬢ちゃんのおかげで暖かくなった。有難うな。」
…兵隊さん達に姉は頭を何度も下げていました。
次の日、私は元気になっていました。
後に、母から聞いた所によると…呼吸が無くて身体が冷たくなりかけていたのだと聞きました。
しかし、それは一瞬の事で直ぐに普通に戻ったそうです。
「一瞬の事だから寝ぼけたのかと思った。」
…と話してくれました。
「きっと栞の気持ちが伝わったんだね。…優しいお兄さんで優しいお父さんだったんだね。嬉しかったから熱を持って行って助けてくれたのかもね。」
…と母は言いました。
八甲田山の軍人さん達は恐ろしい方々ではありません。
後日談:
- …もしかしたらあの時に私は命を落としていたのかと今気が付きました。 一瞬死んでいたのかしら? 前世が高熱を出して命を落とした母方の祖母の幼い従姉妹でしたから…高熱を出すと身構えます。
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