はなかったが、とても優しかった。

あれから私は一度も、あの老人には会えなかった。
ただ、時々ブランデーをあの場所に置いて帰ると、翌日には必ずなくなっていた。酒のお礼かどうか知らないが、その時は決まって魚がよく釣れた。
私は今、四国の学校で教鞭を握っているが、あの時の不思議な体験は忘れられない。
結婚する時、今の妻に「山の神様と酒を飲んだことがある」話したら笑われたので、私は証拠の品を見せてやった。
蓮の杯。
不思議なことに、あの花弁は枯れることなく、今でも瑞々しく夜露に濡れている。
いつか、またあの老人と楽しく酒を飲み交わしたいものだ。

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