『私メリーさん。今駅にいるの。これからあなたの家に行くわ』
深夜いきなり携帯が鳴り、それから聞こえる声が微睡みかけた僕の意識を現実に引き戻した。
「なんだ…?いたずらか?」
僕は電話を切り、再び訪れる眠気に身を委ねようとしたが、再度携帯の着信により邪魔されてしまった。
『私メリーさん。今郵便局にいるの』
郵便局は駅から僕の家までのちょうど中間くらいにあった。
そんな電話にも不思議と怖さはなく、むしろ眠気を邪魔された不快感の方が強かった。
「何だよ…邪魔するなよ…」
そんな僕の気持ちを無視するように、またしても携帯が着信を知らせる。
『私メリーさん。今小学校にいるの』
確実にメリーさんは家に近付いて来ているが、今の僕にはどうでも良い事にしか思えない。
『私メリーさん。今コンビニにいるの。もうすぐだから待ってて』
コンビニと言えば、家から目と鼻の先にいる事になるが、そんな状況となっても今は恐怖より眠気の方が遥かに勝っていた。
そしてまた携帯が鳴る。
ほとんど眠りに落ちかけている僕は、鳴り続ける携帯をわずかに苛立ちながら通話ボタンを押した。
『私メリーさん!今あなたの家の前にいるの!お願いだから眠らないで!あと一回必ず電話に出て!!』
携帯から聞こえるメリーさんの声に今までとは明らかに違う雰囲気を感じたが、何故そんなに切羽詰まっているのかを考える事すら、今の僕にはもう出来なかった。
睡魔に身を委ね、夢と現実の境界が曖昧になる。
どこかで携帯が鳴っている。
実際は僕の手の中に携帯はあるのだが、着信音は僕の耳に微かにしか届いてなく、まるで遠くで鳴っているかのようだった。
いつまでも鳴り止まない携帯に、僕はいつもの習慣からか通話ボタンを押し、無意識に携帯を耳に押し当てていた。
『私メリーさん!あぁ間に合った!今あなたの後ろにいるの』
携帯から聞こえる言葉に対して、もう僕には後ろを振り向く力すら残っていなかった。
深い眠りに落ちて行く僕の耳元で、誰かが囁いた気がした。
「私メリーさん。絶対にあなたを逝かせはしない」
暖かく、どこか懐かしさを感じる何かに包まれた気がした。
そして僕の意識は完全に途切れた。
夢を見ていた。
夢の中の僕はまだ幼く、一人で留守番をしていた。
すると家