獣医夫婦は 思い出せませんでした。

「猫を抱えて 泣きながら ここと家を往復する姿を この近辺やこの前の道を走る車のドライバーが何人も見てた あの子だよ?忘れたのか?」 とおじさんは 夫婦に言いました。

そこで 漸く 思い出すのです。

あの女の子と黒猫の事を……しかし 分かったからとどうなる訳でもありません。

黒猫は死んでしまったのだから……。

あの時のやり取りを思い出し 獣医は 初めて気付きます。酷い言い方をしていた事。 酷い仕打ちをしていた事。でも 獣医夫婦は 一瞬だけ そう思っただけで おじさんが 帰った後に 二人であの女の子と黒猫が来てから 病院の経営に支障が出てきた事を思い出し 腹が立ちました。


自分達の可愛がっていた 犬達もいなくなったのは 全て あの女の子と黒猫のせいだと。

そして 噂されている事も客足が減った事も 全部あの女の子の仕業なんだと 思い込みました。


猫が鳴きます。病院の中に響きます。夫婦で探しますが 見当たりません。
すると 裏口辺りで 黒い人影が動くのが見えました。

獣医は 急いで ドアを開けますが 誰もいません。道路に出て左右を見ますが 人の姿はありませんでした。

夫婦は あの女の子の仕業だと あの女の子が住む家に行きました。
インターホンを鳴らしますが 誰も出てきません。きっと 仕事に行ってるのでしょう。女の子は 学校かも知れません。

獣医は悔しそうな顔をして 二人で帰って行きました。
すると 走る車の中で か細い猫の鳴き声が聞こえた気がしました。
それと……女の子の笑い声が聞こえた気がしました……

少し 気味悪く 思いましたが それでも 何度も女の子の家を訪ねました。
しかし いつも留守で誰もいません。

そんな日々が続いて2週間が過ぎた頃 獣医は友人と ゴルフに出掛け 妻もショッピングに出掛けました。

その帰り道。
久しぶりの友人との再会で 話に花が咲き 気が付くと アルコールをたくさん飲んでいたので 妻に迎えに来るように頼みました。

妻は 夫を迎えに行き 帰路に着きます。
その途中で あの女の子の家の前を通り掛かります。夫に ゆっくり走れ と言われたので 女の子の家の前を低速で 家の方を見ながら 走っていると 車に何かが当たり ゴンッと音を立てた後 何かにタイヤが乗り上げました。

二人とも血の気が引き すぐ 車道に出て車の下を確認しました

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