俺は登山をする。歩くときは10時間くらい山中にこもってたりもする。
 いまからお話しするのは高峰に本格的なアタックを始めた駆け出しのころ、もう5年以上も前のできごとだ。

 当時の俺は体力頼みの無鉄砲登山をくり返し、その都度危ない目に遭いつつもたいていはなんとかなっていた。地図の読みかたもろくすっぽわからず、方角も確認しない。いま思えば背筋が凍るのだが、アマチュア登山者なんてこんなものだ。おそらく登山が趣味だと公言する山屋の九分九厘が、当時の俺以下の知識で山に登っているにちがいない。俺はそれがいちばん怖い。

 5年ほど前の5月、加賀白山を目指して上小池から入山した’(いまにして思えば完全に勇み足だった)。上小池ルートは三ノ峰(2,100メートル)の肩から稜線に取りつき、別山(2,300メートル)を経由していったん湿地帯の南竜ヶ馬場(1,900メートル)まで下る。そこから急登を経て室堂にいたり、白山(2,700メートル)に登頂する。

 夏季なら――もちろん健脚なのが前提条件であるが――どうということはないルートだ。1泊2日もあれば十分白山に登頂して戻ってこられる。ところが5月の高峰というのはほとんど冬であると断言して差し支えない。ためにオフシーズンの高峰にはほとんど誰も入っておらず、トラブルはすべて自力で解決しなければならない。当時の俺はそんなことすら知らなかった。

 現地に着いて登り始めたはいいが、三ノ峰避難小屋をすぎたあたりで全面が残雪しており、「念のため」携行していたアイゼンを慌てて巻いた覚えがある。三ノ峰を越えて鞍部に下り、激烈な登り返しをクリアした先が別山だ。別山は加賀白山に勝るとも劣らない秀峰で、一部の好事家に人気がある。山頂部は驚くほどなだらかで、テントを張るにはうってつけだ。

 山頂部ではテント泊の準備をしている壮年の夫婦と会った。彼らと二言三言交わした記憶がある。確か宿泊地はどこにするのかという内容だったはずだ。
「ぼくらはここ(別山山頂)で泊まるけど、きみはどうするの」とだんなさんがペグを打ちながら訪ねてきた。
「南竜ヶ馬場までいくつもりです。いけるでしょうか」
 このとき時刻は17:00近かった。地図上では南竜ヶ馬場まで2時間以上ある。少しでも良識のある登山者なら、幕営地を見直すべきだとお節介を焼いてくるだろう。ところが彼らはむしろ「いけるかもしれない」と推奨しさえしたのだ。

 壮

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コメント(5)

タイトルとは裏腹に期待外れだった話。。

ごくろうさん♪

怖くはないけどつくりではないので面白かった

(´・д・) 終わんのかい

読みずら(´-`).。oO

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