『別府』による怖い話, 怖い話

 場所と事件名は伏せる。
 その条件で話を聞いた。

 花子さんの父上は長年勤めた銀用を定年退職し、神奈川県に終の棲家を購入した。
 マンションの一室だった。
 昭和の時代は人気の土地であり、長年憧れを抱いていたエリアだったという。
 2LDKの専有面積54平米。
 一人で暮らすには十分な広さ。
 陽当り良好で、窓からは海が見える。天気の按配がいいときは富士山も見えた。

「このマンションでは事件がありました。ただこの部屋ではありませんのもでご安心ください」
 内見に訪れた際に不動産屋の担当はそう言っていた。
 もちろん気にならないわけではなかったが、別に部屋が事件現場だったというわけでない。
 相場と比較してぐっと安い金額に、花子さんの父上は購入に踏み切ったという。

 だが引っ越した途端、異変は起きた。
 花子さんの父上の膝に、激しい痛みが突如発生した。
 娘である花子さんは東京は三鷹駅近辺に住まいを構える。
 毎週末、病院へと連れて行くことが大変だったという。
 それだけではない。
 電子レンジや炊飯器などの家電のトラブルは日常茶飯事。
 深夜寝ていると耳元で囁き声がする。
 飼い猫は引っ越して以来、常におびえた表情でいる。
 極めつけは、廊下の臭いだった。
 花子さん自身も嗅いだという。
 父上のマンションにつく。
 エレベーターを登る。
 四階で降りる。
 父上の部屋と向かいの部屋の真ん中、そこにたどり着くと、強烈な獣臭さが鼻を衝く。
 何度ファブリーズを吹きかけても、次回訪れると、獣臭さは変わらずそこにある。
 まるで女の執念のようだという。

 山田さんは言う。
「本当に、あの年代の人たちは困るわ。調べるってことしないんだもん。ほら、大島てるってあるじゃない。有名な事故物件の検索サイト。あそこで調べたら一発で出たわよ。私だって知ってる超有名な事件、記載されていたわ。あの○×○×事件が……。確かにあの部屋じゃないわ。……けど向いの部屋が、現場。あれだけ大きな殺人事件なのに、その部屋しか告知義務がないのっておかしいわよ、絶対」
 花子さんは概要しか知らなかったその殺人事件を改めて調べた。
 知ったことは、遺族がどれだけ祈ろうと友人がどれだけ精神を病もうと、何の鎮魂にもならず本人の恨みは尽きず。
 臭いという痕跡を残す、ということだけだったという。

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コメント(3)

急に出てきた山田に笑った

よくわからないし、山田さんは誰なの?

怨念怖いですね。だけど、安い買い物じゃ無いんだからちゃんと告知して欲しいよね。

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