ある晩、私は区立体育館で2レ-ン一方通行の25メ-トルコースをのんびり泳いでました。
そのコ-スは道路に例えれば片道2車線で、対向する遊泳客を気にせず安全に泳ぐことができます。
隣に逆方向の2レ-ン一方通行コ-スがあるので、25メ-トル完泳したら復路は隣コ-スを泳ぎ、往復50メートルとなります。

往復50メートルを何十回も繰り返してノルマまで300メ-トルを切った頃、前方から突如、逆走する遊泳客が出現、衝突しそうになりました。
私は慌てて回避行動を取り、辛うじて転覆を免れてゴールに達しました。
振り返って逆走者を睨みつけましたが、些細なことにも口喧しいプ-ル監視員達は、目の前の逆走者を見て見ぬ振り、何の注意もしてませんでした。
私がノルマを達成するまでに、逆走者は復路を逆走しつつ、2レ-ン一方通行コースを何往復も泳ぎましたが、監視員達は何の注意もしておらず、その職務怠慢に憤然としつつ私はプ-ルから上がりました。

プ-ルサイドから逆走者を観察して私は奇妙なことに気付きました。
監視員だけでなく、周りの遊泳客も逆走者に気付いていないようなのです。
逆走者が見えるのは私だけかもしれない、逆走者は幽霊かもしれない、とようやく気付きました。
逆走者は30歳前後の中肉中背の男で、野郎とも思えぬ真っ白い肌をしてましたが、体は透けておらず、突然消えてしまうこともありませんでした。

このプールで私は以前にも、水泳帽子を付けていない逆走者に遭遇したことがありますが、そのときの逆走者と年格好は合致してました。
但し、今度は水泳帽子はキチンと着用しており、娑婆のル-ルを多少は覚えたようです。
次回は2レ-ン一方通行ルールも覚えてもらいたいですが、願わくば娑婆に迷い出ず成仏してほしい。
合掌

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コメント(2)

主さんの文章に魅力を感じる。作品全部拝読、味があって何か好き……

今までにない新鮮な感じが良いと思います

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