つい昨日のことだ。ほんの顔見知り程度の女性から、2年ぶりに連絡をもらった。
 わたしにお礼をしたいのだという。ぜひとも直接会って話がしたいという。
 わたしはいま、スマートフォンを前にして返答に迷っている。

     *     *     *

 2年ほど前、例によってわたしは山へ入っていた。
 歩きなれた鈴鹿山脈、季節は厳冬期であった。
 その日は確か、焼尾尾根というバリエーションルートを始点に、焼尾山→鞍掛峠→鈴北岳→御池岳→カタクリ峠→木和田尾のループコースを歩いていたと思う。2月初旬だというのに雪はあまりなく、スノーシューの出番はほとんどなかった。

 怠惰な登山者であるわたしはこの日も10時すぎに出発しており、下山コースである木和田尾に入ったころには17:00をすぎていた。日没を迎えていたのとおりからの悪天候で、山は厳しい寒さと真の闇に閉ざされていた。
 ヘッドランプの明かりを頼りに吹雪のなか下っていく。確か道標のある、尾根が90度振っている地点だったと思う。わたしは思わず目をしばたいた。

 若い女性がいた。下山の遅れた山ガールではなかった。ダークブラウンに染めたボブカットの、女子大生くらいの女性だ。妙なのはその格好だった。彼女は日没後の吹雪のなか、キャミソールにホットパンツという信じがたい軽装をしていた。靴はビーチで履くようなミュールで、足が真っ赤に霜焼けしている。

 思わず驚きの声を漏らしてしまった。長らくナイトハイクをやってきたけれど、こんな経験は初めてだった。幽霊でないことだけは確かだった。存在感が圧倒的すぎる。なんにせよ、知らん顔して通り過ぎるわけにはいかなかった。

「これから登りですか」われながら間抜けな質問だったと思う。「もう遅いからよしたほうがいいですよ」
 返答はなかった。いざるように霜焼けで痛々しい足を一歩、また一歩と進めている。ぶしつけだとは思いつつ、思い切ってヘッドランプで顔を照らしてみた。器量は整っていた。暖色系のアイシャドウを施しているのがやけに目立った。ただ唇は寒さのために菫色に変色しており、絶えず小刻みに震えていた。明らかに人間だった。

 歩荷と称していつもテント泊装備で歩いていたのが功を奏した。寝泊まり用の寝間着を携帯していたので、ザックから引っ張り出して着るように促した。女子大生はかすかに首を横に振ると、また歩き出そうとする。わたしはこのころにはもう、彼

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コメント(3)

うわぁ

こたくんへ 無理なことを言ってはいけません

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