彼岸花が狂い咲いていた。石灯籠の明かりがそれらを鮮やかに照らし、鮮やかな紅の色が目に焼きつく。

 飛び石を超えて玄関へ上がる。既に弔問客は大勢来ているようで、なんだかやけに騒がしい。まるで宴会のようだ。私は靴を脇へ寄せ、他の方の草履から離しておいた。

「大野木様。もしも宜しければ、お召し物を替えませんか?」

「礼服ではおかしかったでしょうか」

「いえ、そのようなことはありません。旦那様より大野木様の袴を誂えるよう言われておりましたので」

 そういえば以前、紋付袴くらい買いなさい、と言われたことがあった。帯刀さんは自邸にいる時も必ず長着に羽織という着方を好んだ。

「既にご用意しております。僭越ながら、わたくしが着付けさせて頂きます」

 断ろうか、とも思ったが、折角の行為を無碍にするのも気が引ける。なにより、私の為に誂えてくれた紋付袴を、ここで使わずにどうするというのか。

「有り難うございます。宜しくお願い致します」

「ささ、こちらへどうぞ」

 廊下を通る際、障子の向こうで騒ぐ声が聞こえてきた。とても通夜とは思えないが、田舎の葬儀とはこういうものかもしれない。

 通された座敷には、なるほど立派な袴が衣桁にかけられていた。家紋は丸に橘、まさしく私の為に誂えてある。

「なんだか、申し訳ない気持ちになります」

「旦那様は裏表のない大野木様のことを好いておられましたから。さあ、どうぞ上着をこちらへ」

 私は葛葉さんに言われるがまま、服を脱いだ。恥ずかしさなどないが、申し訳ないなと思う。葛葉さんの手つきは手馴れていて、私はあっという間に紋付袴に身を包むことができた。

「しつらえが間に合って本当によかった。きっとお越し下さると信じておりました」

「葛葉さん。大変無礼なことをお聞きしても宜しいでしょうか」

「はい。なんなりと」

「帯刀さんは苦しみましたか?」

 葛葉さんは首を横に振って、薄く微笑った。

「眠るように逝去なさいました」

「そうですか。それはよかった。心残りはないようですね」

「いえ、最後にひとつやり残したことがあると仰っていました」

「やり残したこと?」

「はい」

 それは何なのですか、そう尋ねようとして玄関で呼び鈴が鳴った。

「お話はまた後ほど。さあ、こちらへ」

 廊下へ出ると、ちょうど他の弔問客たちが大座敷へと移動している最中だった。誰も彼もが顔に獣面をつけて

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コメント(6)

美しく、淡々とした文の中に 戦慄の情景が浮かび上がる、 実話かどうか、というより文学作品として 素晴らしかったです。

ずいぶんと書き慣れているなと感じました。迫りくる鳥肌が立つ緊迫した恐怖はないものの、読むと情景が目に浮かびまるでドラマの脚本を見ているかの様でした。素晴らしい!!

実に雰囲気のある作品でした。

むずい漢字や言葉使ってるだけ。

綺麗な話だと思いました

素敵な話でした

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