テントが靡いているのかと思った。風が強いのだろうか?
いや、さっき起きて外に出たときには止んでいたはずだ……。
A君は寝袋から抜け出して、またテントの外に出た。
風はなかった。
あたりを見回してみたが、板切れやゴミなど、テントにぶつかるようなものもない。
「おかしいなあ、気のせいかなぁ……」
再び寝袋に入り、うとうとっと来た時だった。……ガサガサガサ……また音がする。
さっきより大きい。
―牛だろうか?いや、牛は高電圧の柵の中から出られないはずだから、ここまでやってくるはずはない―
暗闇の中でぱっちりと両目を開いたまま、A君は奇妙な音に耳を澄ました。
……ガサガサガサッガサガサッ……
よく聞いてみると、テントの表面に何かが触る、というか、当たっているような音だ。
「まてよ……そうか、きっとそうだ!」
A君は、急に低い山ではシーズンになると、時々テント荒らしが出没することを思い出した。―そうに違いない―
「何してるんだっ‼」
虚を衝こうと大声で怒鳴りながら、またテントの外へ転げ出た。
A君は、体格もよく一応柔道は二段である。
テント荒らしの一人や二人、の・す・ だけの自信はあった。……が、
「あれえ???」
キョロキョロと探し回ってみたが、やはり誰もいない。
牛もいない。
風もない。
仕方なしに懐中電灯を手に、首をひねりながらテントの中に入ってから、1秒も経っていない時、
……ガサガッ……ガサッガサガサガサ……
また音がした。さっきより遠慮のないしつこい音だった。
今度は、懐中電灯を点けたままでテントの中が明るくなっていたため、A君は反射的に音のする方を見たわけだが……。
「それが、テントの斜めに張ってある布の部分が、外から押されて、ガサッガサッ、と音をさせながら確かに飛び出てくるものがわかるんですよ」
テントの片側は岩肌、片側は道である。
音を立てながら何かが凸型に飛び出てくるのは、岩肌側のテントの布だった。
「?…」
懐中電灯で、音のするその箇所をさらに大きく明るく照らし、もう一度よく見ると……。
……ガサッ……
「あっ!」
それは握り拳を作った、人間の4本の指の関節だった。
音がするたび、握り拳の形が布の向こうからくっきりと浮かび出てくるのだ。
―やっぱり泥棒じゃないか―
「コラー‼」
正体を確信したA君は、ありったけの声を張り上げながら、今度はいきなり、その拳が見えたテントの岩肌側に走って出た。
けれど、

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どこの山? 鹿児島のS山で似た体験をしました

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