な」

彼は舌打ちすると、車を路肩に停めた。トンネルまであと五十メートルあるかないかといった距離だった。

助手席で震える真弓を尻目に、彼は「すぐ帰ってくるから」とだけ言い残し、車を降りた。真弓は小さく頷いた。

彼がトンネルに向かってから三十分が経過した。まだ帰ってこない。何度か彼の携帯に電話してみたのだが、留守番サービスに繋がるだけだ。

一時間が経過し、二時間が経過し……真弓はだんだん不安になってきた。幾ら何でも遅過ぎる。すぐ帰ってくると言っていたのに……。相変わらず、電話にも出ない。だが、自分でトンネルまで行って中の様子を確かめる気にはなれなかった。

三時間が経過した。彼は帰ってこない。とうとう真弓は警察に通報した。

駆け付けた警官らに付き添われ、真弓はトンネルまで向かった。トンネルの前に立つと、中からゴウゴウと風の唸るような音がする。一寸先も真っ暗で何も見えない。空間にポカンと空いた異次元に通じる穴を想像し、真弓は背筋が寒くなった。

トンネル内を捜索したが、彼は見つからなかった。結局、ただの失踪ということで話は片付けられてしまった。苦虫を噛み潰したような顔をしている真弓に、一番年嵩の警官がこんな話をしてくれた。

ーーー今から十年くらい前のことです。近所に住む子どもらがね、このトンネルでかくれんぼして遊んでいたんですよ。

都会と違って、近くにゲームセンターもなければ公園もない。このトンネルは随分昔に閉鎖されたんだけれども、子どもらにしてみれば恰好の遊び場だったんでしょうね。

だがね、遊んでる最中に落盤があったんです。あっちゅう間のことでねぇ……ドーンと大きな音がして。慌てて駆け付けたんだけれども、間に合わなかった。可哀想に……一人も助からなくてね。

それからですよ。トンネルの近くを通りかかると、子どもらの声が聞こえてくるようになってね。「もういいかーい」、とか「もういいよー」ってね。

急な事故でしたからな。きっと子どもらは自分達が死んだことにも気付かず、今もまだトンネルの中で遊んでるのかもしれません。

あなたの恋人も、もしかしたら子どもらに魅入られてしまったのかもしれませんねぇ……。

そこまで話し終えると、真弓は長い長い溜め息をついた。

「彼がいなくなってすぐのことよ。メールが来たの」

差出人は彼だった。彼は無事だったのかと安堵しながらメールを開く。そこにはたった一言、こう書かれて

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コメント(14)

うおおおおおおおおおおお

警官無神経だな

携帯を買い換えてアドレスを変えようよ

ずっと気にしてなくちゃならないなんて。そりゃ依存にもなるよ

寝てないってこと?

毎日常にメールの事気にしなきゃいけないのは可哀想

彼氏がいなくなったのは二年前だから、真弓は、二年間彼氏に返信してるの?!

真弓さんは瞬きしてないんですか~ やばいねぇ~

逝っちゃえば楽になれるのに。

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