俺は、会社帰りの夜道を歩いていた。
もうすっかり夜も更けていて、手元の腕時計は2時を指している。
残業が長引いた結果なのだが、会社に泊まらなくてもいい今日は、まだマシな方だった。
俺が退社した時も、まだ何人も慌ただしく仕事をしていた。 ⋯⋯、気の毒だ。
それにしても、と俺は周囲を見渡す。
この道は毎日通勤で使っているが、どこか違和感を感じる。
残業明けで疲れているのだ。
早く帰って寝ようと、俺は足を速めた。

⋯⋯?
俺が歩いてしばらくした頃、前から女が歩いてきた。
女はスマホのライトを使って、何かを探しているようだった。
「⋯⋯がない。⋯⋯がない。」
耳を澄ましてみると、何かを呟いているのが聞こえた。
こんな夜遅くに探しているということは、余程大切な物なのだろうか。
興味をもった俺は、その女に話しかけた。
「どうしたんですか」
深夜にいきなり話しかけられて、少し驚いたのだろう。
女は一瞬ビクッと体を強ばらせ、今まで下を向けていた顔を、初めて俺に向けた。
「⋯⋯⋯、え」
俺は顔の血が引いていき、青ざめていくのがわかった。
女が顔を上げ、俺と目を合わせる。
いや、合わなかった。
何故なら、その女の顔には、顔と呼ばれるものがなかったからだ。
「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」



香織は、男を見て、恐怖のあまり固まりそうになった。
周りに響く悲鳴が自分のものであると気がつくことにさえ、暫くかかった。
香織は震える足に力を入れ、男から一目散に逃げ出した。
何故なら。何故なら。


この世に顔のある人間など、いるはずがないのだから

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怖いですが

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