有毒な化学肥料でどれだけの生態系が破壊されたかを克明に記述し、金儲けのために食糧増産を企図する悪徳企業や、向う見ずな政策を立案して頭上から毒の粉をばらまく合衆国政府を糾弾した。

 この論調は次世代の環境保護論者にも受け継がれていく。
 われわれは無条件で農薬は悪いと判断するし、鳴り物入りで登場した遺伝子組み換え作物に至っては、なにか途方もない陰謀が隠された悪魔の食べものであるかのように嫌悪する。

 唯一安心して口に入れられるのは有機農法で育てられた無垢な野菜のみ。そういうことらしい。

     *     *     *

 環境保護論者がマントラのようにくり返す〈伝統的な農業〉という言葉は矛盾している。
 農業が始まったのはたったの1万年ほど前からである。十分むかしのように感じるけれども、人類がチンパンジーとの共通祖先から分岐したのがおよそ600万年前であるから、日の浅い事業であることは確かである。

 石器は何十万年もの歴史を持つが、だからといって包丁の代わりに石刃を奨励するのはばかげている。なぜ農業に限って懐古趣味が幅を利かせるのだろうか。よりよい栽培方法を採用することのなにがいけないのだろうか。

 農薬は百歩譲って許そう。だが遺伝子組み換えだけは容認できない。
 そう思っている人は多い。しかしよく考えてみてほしい。われわれは伝統的な農業とやらでも品種改良を施し、野菜を食べやすいよう改造してきたのではなかったか?

 野生のキャベツやトウモロコシがどんなものかご存じだろうか。栽培されている現行品種とはまったく似ても似つかないしろものである。ことにトウモロコシの変貌はすさまじい。品種改良は結局のところ、遺伝子組み換えである。現代のバイオテクノロジーはそれを実験室で瞬時に行えるだけのことだ。

 遺伝子組み換え作物は有用な特徴を持っている。必須栄養素のビタミンを多量に含有したゴールデンライス、対虫性のある小麦や大豆。現在までのところ、遺伝子組み換え作物で深刻な健康被害が出たという研究結果は存在しない(環境保護論者が捏造したものを除いてであるが)。

 反対に有機栽培された〈無農薬野菜〉での健康被害は報告されている。
 この事実に驚くのは、野菜がおとなしく食べられるだけの無力な存在だという先入観があるからだ。野菜は動けないぶん、捕食者の対象にされやすい。その対策として彼らは身の危険を感じると、内部で毒

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コメント(1)

なかなか面白かったです。

本宮晃樹さんの投稿

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