ぼ完熟した状態で少数の子孫を産生するという手もある。
 生まれた直後から子どもがある程度自力で活動でき、かつ親の手厚い保護があるのなら、数匹程度の産生で十分間に合うだろう。3匹のうち2匹でも生き延びれば、当面のところ全体の総数は差し引きゼロになる。これは生殖のk戦略と呼ばれている。

 人類はいうまでもなくk戦略を採用している。
 その数はたったの1人とたいへん少ない。そうなると親としてはなにがなんでも子どもを生き延びさせなければならない。ことに人類は抱卵期間が9か月と長く、子ども自体も未熟なまま生まれてくるため始末が悪い(人類は脳を極度に発達させた種なので、完熟した状態だと産道を抜けられない。そのため例外的にk戦略なのにもかかわらず子どもが未熟なのだ)。

 k戦略選択者は上記のような理由で、そもそも多くの子孫を望むべきではない。そのような生物学的構造になっていない。
 われわれ同様1夫婦1匹のゴリラやチンパンジーが、生涯に8人もの子どもを持つだろうか? 彼らだってできればそうしたいのだろうが、環境が許さない。それだけの個体数を維持する資源がないのだ。

 このように尋常な自然淘汰が働いている環境なら、ある特定の種が過剰に増えたりはしない。岐阜県の北部では定期的に毛虫が大発生するけれども、放っておけば自然に鎮静化する。十分にいきわたるだけの食料がないので、大半の毛虫が餓死するためだ。

 アフリカで起こっているのは突き詰めれば、上記のようなことである。
 存在する食料に比して、生まれてくる子どもが多すぎるのだ。
 もしくは生まれてくる子どもに比して、食料が少なすぎるともいえるだろう。

     *     *     *

 1960年代初頭、衝撃的な著書が鳴り物入りで出版された。その名も〈沈黙の春〉。
 著書の名前はレイチェル・カーソン。言わずと知れた環境保護論の先駆者である。DDTなどの有害な農薬がまき散らされたせいで鳥たちが全滅し、春が訪れてもカッコウもうぐいすも鳴かない。静まり返った不気味な情景を描写した〈沈黙の春〉は、英語圏だけでなくあらゆる国で翻訳され、世界的ベストセラ―となった。
 同時に彼女は環境保護論者たちの精神的支柱、伝説的人物に祭り上げられるようになったのである。日本でも彼女の人気は根強く、ほとんど神格化されているといってよい。

〈沈黙の春〉は先に触れた〈緑の革命〉を徹底的に批判した。

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コメント(1)

なかなか面白かったです。

本宮晃樹さんの投稿

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