Kさんは、特殊清掃を仕事にしている男性である。

 「主な仕事は、住人が変死したた部屋の始末です。血や便の汚れを清掃したり腐敗した床を綺麗にしたり.......変死なさった方の〝かけら〟を回収することもあります」

 その日の作業現場は築五十年近いアパート。孤独死していた老人の部屋を片づけるという内容であった。

 「死体は警察が引きとり遺族に渡すか、身寄りがない場合は専用の墓に埋葬するんです。なので、ホトケさんとは基本的には遭遇しないんですが......」

 その現場には《破片》があったという。

部屋の真ん中に置かれたコタツを撤去しようと持ち上げた瞬間、Kさんと同僚は腰を抜かす。

コタツの下で《真っ黒なスープ》が、水たまりを作っていたのである。


 「足を突っ込んだまま死んだらしくて.....腰から下が溶け残っていたんです。不思議と匂いはキツくありませんでしたが、蛆が羽化したものか、ごまのような蛹の殻が無数に浮いていて......わかめスープがしばらく飲めませんでしたね」

 変死体を見慣れている彼ですら、息を呑むありさまであったという。
「思わず、普段よりも長めに手を合わせました」

 異変は、帰宅後に起こった。

 玄関で靴を脱いでいると、妻が「ちょっと.......」と青い顔で近づいてきた。聞けば、四歳になる長男が午後からずっと泣き止まないのだという。
「病院に連れていこうかと思って.......」
不安げな表情の妻をなだめてから、Kさんはリビングにいる長男のもとへ向かった。
「どうしたの」
泣きすぎたために空えずきを繰りかえす長男の目線までかがんで、優しく問いかける。
ひきつけを起こしながら、長男は部屋の隅を指さした。


「へんな、おじちゃん、いるでしょ」

唐突な言葉に戸惑いながら「誰もいないよ」と返す。長男は無言で首を振った。

「いるよ、そこにおじちゃん。ありがとうって。パパにありがとうって」

「あしがね、おみずなの。」

 翌日、上司が懇意している住職に読経を上げてもらってからは、長男は何も言わなくなった。

 「ああいうモノって、先回りすることもあるんですね」とは、最後にKさんが漏らした言葉である。

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