神戸市の中心に居た頃、朝早くの日課は、お気に入りのパン屋に行くことだった
山の手にある住まいからは車で裏道を通り抜けるとパン屋の前に着く。
その日は、たまたまオープンの少し前に着いてしまい、店の横に車を止めて暫く音楽を聴きながら
時間が来るのを待っていた。
年が明けたばかりの寒い早朝の事だった。
 暫くすると何かしら音が聞こえてくる、CDからでもない…人の声にも似た叫び声のような気がした
音楽のボリュームを落として、身構えていると、どんどん大きくなり声のようなものが近づいてくる
海のうねりのように、山の方から何か得体のしれないものが押し寄せてくる感じがする
怖くなり、とっさに後部座先の毛布を取り、くるまって身構えた
音のような、声のような音はドンドン大きくなり近づいてくる
耳を澄ますと、人の声や動物の叫び、樹木が避ける音、それが大きな不協和音になり襲ってくる
車を目掛けてその音の塊が、雪崩のようにドド―ッと、襲ってくる
私は震えながら薄目を開けてそのものを捉えようと身構えた
ドンドン、バンバン大きな破裂音を捲し立てながら車の近くまで押し寄せてくる
私は耳を抑えながらも車の振動を感じながら
無意識に「神ささま、神さま…」と何度も叫んでいた
ふとバックミラーを覗くと、蛇のうねりのようなものが山の中腹から繋がっている
物とも、動物とも物体ともいえる何かが列をなして海を目指してドド―ッと流れ込んでいる
もしかして、死ぬのかもしれない…そう思いながら
行列が通り過ぎることを身を固くして待った
行列は車の中までも侵入し、私の存在を無視して通り過ぎていく
何か分からない叫び声、呻き声、そして小動物のような小さな足跡が体の上を通過する
ほんの十数分のことだったろうか
その行列が通過するまで
怖くて、声も出なくて、震えが止まらなくて…私は固くなって運転席から動けなくなっていた

パン屋の店員がコツコツ窓を叩く音で正気に戻った
「いつものパン焼けましたよ」
「ヱツ…」
「何かありましたか?」
「いま、凄い行列が山から通り抜けて…怖くて」
音にも姿にも、はっきりした印象もないものを必死の形相で形容する私は相手にはされず
寝ぼけた客だと一笑に付された

 それから一年後…神戸を襲った未曽有の大震災は
あの行列が通ったルートを山から海に向けて地面を裂いた
   

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コメント(5)

お母たん、お久しぶりです!コメントありがとうございます。人間の都合で自然を破壊し大地を汚染し、震災が起こることを「神の警告」と言えば嘲笑されつつある現在です。この場所が霊道なのか、否かですが…震災直前には修行を積まれた方にはお告げがあったと聞きます。忘れずに人類のエゴを悔い改めるために、私のような者にも警告を体験させられた思います。いつもありがとうございます!

この話、本で読んだw

こんばんは。震災を経験された方から体験談を聞かせて頂く機会があったのですが、人の優しさや逞しさだけではない話も いくつか お聞きしました。当事者ではないので投稿するのは忍びなく控えさせて頂いていますが、不思議な体験をされた方が身近に居りましたので頷きながら読ませて頂きました。

怖さが伝わって来ました。

お二方の匿名さま、コメントありがとうございます。 この話はかなり昔、雑誌社の人に話したこともありますが、神戸Tストリートで霊感の強い方は色々な経験をされているようです。その話に付随したストリーは形を変えて紹介されています。

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