「うわっ」
誰かが声を上げた。
照らされた無機質な石、それは目の前に立ち並ぶ無数の墓石だった。
その墓石の隙間から枝のように生えた人間の腕が、こちらに向かって手招きしていた。H先輩だ。
墓石を回り込むようにして裏手に回ると、H先輩のすぐ目の前に、小さな御堂があるのが見えた。
「この中に、地蔵が?」
言いながら、俺は明かりで確認してみた。思っていたよりもかなり小さな御堂だ。
「見てみろよこれ、ちょっと雰囲気出てね?」
H先輩はそう言いながら、持っていた懐中電灯で御堂の扉辺りを照らして見せた。
それを見たY先輩が、
「うわっ!け、けっこうまじっぽいな……」
と怪訝そうな顔で言った。
俺もその扉を見てY先輩と
同意見だった。
所々カビが生えボロボロになっていた御堂の扉は、中太のしめ縄が厳重に巻かれており、まるで封印を施しているように見えたからだ。
「この中に入ってんのかな?」
H先輩はそう言うと、さも当然のようにしめ縄をとり始めた。
「えっまじ……?」
呆気にとられる俺たちを他所に、H先輩はしめ縄を無造作に外すと、御堂の扉を開けた。
扉の中は小さく、H先輩の体が邪魔で中の様子が良く見えない。
「おっこれか?呪いの地蔵って……あっ!?」
H先輩の声に思わずその場にいた全員がびくりと体を震わせた。
「な、なんだよ急に声出して、やめろってそういうの」
Y先輩はそう言いながらH先輩の側に駆け寄った、その時だ、
「うわっ!H、お前それ何持ってんだ?」
Y先輩だ。突然H先輩に向かって喚く様に言うと、H先輩が手に持っていた物を強引に奪い取り、それを御堂の中に戻し、両手を合わせ合掌した。
いきなりの事で何がなんだか分からない、ただ、明かりを向けた一瞬、H先輩が手に持っていた物が、ほんの少しだけ見て取れた。
何か丸い球体だった。石でできた丸い球……そこまで思い返し俺はハッとした。
もしかして……地蔵の……頭?
その瞬間、辺りを急激な寒気が襲った。
「おい、何か寒くね?」
誰かが言った、俺だけじゃない。季節は夏。真夜中と言えど、この急激な冷え込みようは明らかに常軌を逸している。
Y先輩も何かを感じとったのか、その場に突っ立っていたH先輩の腕を掴み強引に歩かせた。
「帰るぞH!」
「えっ?何で?来たばっかじゃん!」
「馬鹿か!調子乗りすぎだお前」
Y先輩のこの慌て様
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コメント(6)
お地蔵は普通に怖いなぁ。実際に見たことってあんまないし…(´゚ω゚`)
バターオイル
Y先輩が亡くなったのは地蔵を見に行って一週間後。その一週間の間に大学を中退したのだとしたら急すぎるし、仮にスグに中退したとしても、Y 先輩の訃報を知らなかったというのも不自然すぎる。惜しい。
匿名
面白ければどっちでもいい
ARuFa
扉開けて数年も立ってたら、さすがに移動撤去されるんじゃない?
絵巻
俺の親戚の叔父さん、じ〇つして一ヶ月ぐらいしてからし〇だって聞かされたよ?家族が世間体気にして密葬する場合もあるからな。
ろん
御堂と地蔵が消えたってとこから急に松っぽさが…。そこまでは面白かった。
(´・д・)