鉛色の空は暗く、今にも雨が降り出しそうだった。



この辺りの村は冷害の影響でここ数年凶作続きであり、村人は困窮の一途をたどっていた。



中には、村を捨てて家族で出奔する者さえ出てきている。



けいは額の汗を手拭いでぬぐうと、遠い目をした。



彼女の傍らには夫の稲吉が汗水たらして田の草を刈っている。



『そろそろ日も暮れる。終わりにするか』



夫の稲吉の言葉に答えず、けいの目は空を見ていた。



稲吉は、けいの横顔をしばらく見つめると何も言わず、また田の草を刈り出した。



けいはそんな夫の姿をみて、おのれが生きてきた人生を思い返していた。



『わしは、いったい何しとるんじゃろうか…』



思えば彼女の人生も数奇なものであった。



地主の家に生まれたけいは、蝶よ花よと育てられ、何不自由ない幼少期を過ごした。



それが、彼女が女学校に進学しようとしていた矢先、父がある事業に手を出して失敗し、家も土地もすべて失ったのだ。もちろん学校どころではなくなった。



父は家族を置いて失踪し、母は失意のうちに没した。



妹たちも遊郭に売られていった。



その後は、田畑を売買したり、関ヶ原の合戦で使われたという家伝の鎧兜や徳川時代に祖父がどこぞで手に入れたという茶器、祖母がこの家に嫁に来る際に着てきたという花嫁衣装などを売り払って、ほそぼそと生活していたのだ。



けいは大柄な女であった。百キロ近い巨漢であり、家の没落で嫁ぎ先も見つからず、いつの間にか三十路の坂を超えていた。



そんな折、人の世話もあって稲吉という男に縁づいた。後妻である。嫁入り道具など用意できるはずもなく、唯一幼いときに父母に買ってもらった市松人形を嫁入り道具として大事に持ってきた。



稲吉の家は代々の小作で、父はすでに亡く、母のエツが同居していた。この母は、若い頃には芸者だった者であり、父が見染めて一緒になったのである。



当時の農村では同じ村内か身内で縁づいていたこともあり、この母は余所者として村の者から疎外されていた。



それは、この村の者でないけいも同じであった。



父が事業に失敗しなければ、けいとて同じ地主の子息か、大学まで出た男の嫁にもなれたであろう。



それが今では毎日田畑を這いずり回り、明日の食事にも事欠く状態である。



けいは細い目を更に細めると、おのれが置かれた

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