検事の死刑求刑に対して

田中太郎は泣きながら訴えた

「信じてください。あの女性を殺したのは僕じゃない」


聴衆は笑みを浮かべていた

指紋、監視カメラの映像、目撃者の証言

全ての物証が田中太郎が犯人であることを証明していたのだ

誰もが彼が犯人であることを確信していた


周囲の冷笑に意を介すことなく、田中太郎は言葉を続けた

「僕は多重人格なんです」

弁護士も言葉を加えた

「被害者の村上サキを殺したのは、彼の別人格である鈴木次郎です」


法廷はざわつき、検事の顔色も変わった

「くだらない」吐き捨てるように言った検事は、

挙手をし、裁判官をこう説得した

「精神鑑定はすでに行なっており

『別人格の存在は虚言である可能性が高い』との診断結果が出ています。

イタズラに裁判を長引かせることなく、即刻の死刑判決を求めます

そもそも、この男は......」


ヒートアップする検事の言葉を遮り、

裁判官は木槌を叩いた

「静粛に」

そして田中太郎の方に向き直して、口を開く

「あなたの中の鈴木次郎が殺人をおかした。ということで間違いはないですか?」

田中太郎は大きく頷き、それを確認した裁判官は言葉を続けた

「あなたの多重人格をこの場で証明することはできますか?」

この質問に対しても田中太郎は大きく頷き、

「鈴木次郎を呼び出します」と言った


田中太郎は目を強くつぶり、一拍置いてから目を開けた

それだけの動きであった

しかし明らかに彼から漂う雰囲気が、動作の前後で変わっていたことを、

その場にいた誰もが感じたのであった

それは、本来であれば、茶番と揶揄されうる行為に対して、

異議を申し立てるべき検事でさえも、口を閉ざしてしまっていたことからも明らかだった


「はじめまして」

裁判官に対して挨拶した田中太郎の目に、先程まで流れていた涙はなく、

眼光の鋭さは、全く別人のそれだった


呆然としていた裁判官だったが、

我に帰り「......はじめまして」といって挨拶を返した


それから裁判官は緊張した面持ちで、

「まばたきせずにご覧ください」と言って、

判決を下した



※下にスクロールで解説













































【解説】

田中太郎の内面には、

殺人鬼である「鈴木次郎」が居ることは明白のようで

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コメント(2)

全く怖く_無いんだが

大風…………。

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