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コピペ もう一つの「ヤマノケ」
長編

コピペ もう一つの「ヤマノケ」

匿名 2016年7月12日
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以前、コピペで「ヤマノケ」を見た。 その話では娘からヤマノケがまだ落ちなくて途方に暮れる、と言う終わりだったと記憶している。 実は俺の妹にも、ヤマノケが憑いた。 しかしコピペと違う所がある。 それは、ヤマノケが落ちたと言う事だ。 今回はそれを書きたいと思う。コピペの人にも役に立てば幸いだ。 当時俺は大学生で二十歳、妹は中一で十三歳だった。 妹はよく俺に懐いていて、俺もそんな妹を可愛がっていた。 夏休みのある日、妹と二人でドライブに行こうという事になった。 俺は父の車の運転席で妹を助手席に乗せて、上機嫌だった。 妹は賑やかな方ではなく、いつも大人しい感じだったが、よく笑う可愛らしい子だった。 そんな妹は助手席で珍しくはしゃぎながら、 「どこ行こっか! どこ行こっか!」 と笑っていた。 特に行き先を決めてなかった俺は、 「どこ行こっかな~」 と妹に笑いかけながら適当に走らせていた。 十八時くらいに出発し、海があれば車を止め、波打ち際で妹が裸足で遊ぶのを見守ったり、ちょっと一緒に遊んだりした。 それに疲れた俺たちは車に戻り、適当に走らせ、コンビニを見つけた俺は妹を待たせて車から降り、おにぎり四個とペットボトルのお茶二本を買って車に戻った。 妹におにぎりとお茶を渡すと、嬉しそうにおにぎりを頬張り、 「楽しかったね」 と笑った。 俺もおにぎりを食べながら家に向かって走らせていると、妹が突然、 「止まって! 止まって!」 と言った。 俺たち以外車はいなかったので停めると、 「あそこから帰ろうよ」 妹の指差す先を見ると、森みたいな所への入り口が、ぽっかりと口を開けていた。 俺は怖かったので、 「やだよ。何か居たらどうすんの?」 「楽しそうじゃん、肝試し肝試し!」 結局、駄々をこねる妹に敵わず、そこに入った。 しばらく走るが、うっそうと繁った木々しか無い。 しかも舗装されてない獣道を走っている為、車は終始揺れていた。 隣の妹を見ると、眠そうな顔でぼんやりと窓の外を眺めている。 そろそろUターンして帰ろうと考えていると、フロントガラスに何かが思い切りぶつかった。 ガツンッ! 「きゃあ!」 「うおっ」 咄嗟に急ブレーキを掛ける。妹は押し殺した声で 「何!? 今の何!?」 と、しきりに言っていた。 「ちょっと待ってろ。見てくるから。」 俺は恐る恐る車を降りた。車を降りた俺に、 「待ってよ! ひとりにしないで!」 妹は泣きながらシートベルトをガチャガチャしていた。 俺は構わず、車の前に移動する。 するとそこには、一羽のカラスが死んでいた。 嘴の根元が顔に食い込み、目玉が飛び出していた。フロントガラスを見ると、深いキズがついている。 親父の車なのにな、と俺は嫌な気分になった。 その時、さくっ……さくっ……という音が遠くから聞こえてきた。 落ち葉を踏む音なのだが、普通に歩いてるのとは違い、ケンケンする感じで、てーんさくっ……てーんさくっ……と言う感じだった。 しかも近付いて来てる。これはやばいと思って急いで車に戻り、エンジンを掛けた。 エンジンが掛かってほっとしたのも束の間、タイヤが動いても車が進まない。 キュルル、と言って、タイヤは回ってるが、その場の落ち葉が舞い上がるだけで、俺は焦る、妹は泣く。 その時、前方の木の後ろで、動くものが見えた。俺は咄嗟に、妹に向かって、 「見るな! 伏せろ!」 と言った。それでも妹はパニクってて、 「へっ? 何?」 とか言いながら泣いてるので、俺が妹の頭を引き寄せようとしたら、いきなりがくんって車が揺れた。 見ると、あいつが体当たりした様で、大きな体が見えた。 腕には犬の様に毛が生えてて、大人の男位の大きさと長さ、多分足も同じだ。 顔はフロントガラスいっぱいでかなり大きい、カービーみたいに顔が体だった。 しわしわの顔で、皮膚はごわごわ。口がでかくて、大きい汚い歯がごちゃごちゃと並んでいた。 そいつがもう一度体当たりした。その瞬間、妹が顔を上げた。そいつが大きく口を開けた。 妹も口を開けた。 やめろ、と言おうとして俺は気を失った。 どれくらい時間が経ったかわからない。 一瞬かもしれないし数時間だったかもしれない。 起きると、妹は眠っていた。全て夢であれと思ったが、フロントガラスには大きなキズがついていた。 それからUターンして戻り、俺は一心不乱に寺を探した。幸いなことに墓地があり、その近くに寺があった。 俺は妹をお姫様だっこの形で抱えて、車から降ろした。 おにぎりの包み紙と無垢な寝顔を見て、取り返しのつかない事になったことを悟って、俺は妹の服に涙を落とした。 俺は寺のとこに行き、妹を抱えたまま、 「すみません」 と言った。 出てこなかったので、戸を少し叩いて、 「すみません」 と言い続けると、お坊さんが出てきた。 妹を見るなり、 「ありゃ」 と言った。 うつむく俺を見てお坊さんは黙って境内に通してくれ、座布団を二枚出してくれた。 一枚は俺が尻の下に敷き、もう一枚は妹の枕として使った。 お坊さんが口を開かないので、俺は言ってしまった。 「ヤマノケですよね」 するとお坊さんは驚いたように俺を見た。 「うん。何で知っとる?」 俺はそれには答えず、訊いた。 「出ていきませんか」 お坊さんは俺から目を反らした。 「うん。こいつは強めやな」 あまりにきっぱりと、淡白に言われたので俺は怒りに近い感情を胸に抱いた。 ドライブなんか連れてかなければ、あんな道入ってなければ…… いろんな後悔が押し寄せてきて、パタパタと涙が床に落ち、染み込んだ。 「この子が好きやろな」 突然お坊さんが口を開いた。顔を上げると、俺を見ていた。俺は頷いた。 「ほんだら兄ちゃん、壊れてしまうかも知れんよ」 俺は妹を見た。俺の可愛い妹が、コピペみたいに変貌してしまったら、俺は耐えられるのだろうか? 「帰った方が……」 「大丈夫です。大丈夫です……っ」 俺はもうグシャグシャに泣きながら、お坊さんを見た。 どんな妹でも逃げない。俺の責任だから。お坊さんは頷くと、妹に歩み寄った。 「かぅらぁあーっ!」 お坊さんが大声を上げたので俺はビクッとした。 その瞬間、妹はパチッと目を開き、むくりと起き上がった。 「はいれたはいれたはいれたはいれた」 コピペと一緒だ、と俺は馬鹿なことを考えていた。 お坊さんはそんな妹を思い切り平手打ちした。妹は、 「ひいぃっ」 と言ってふっとんだ。俺は拳を握って耐えていた。 妹はハァハァと荒い息をしながら、それでもへらへら笑っている。 そんな妹にお坊さんはつかつかと寄って、パンパンパン、と繰り返し平手打ちをした。 妹はやがて涎を滴ながら踞り、ピクリと動くだけになった。 お坊さんはそんな妹を隣の部屋に引きずって行き、ぴしゃりと戸を閉めた。 やがて隣の部屋から、 「あ……っ……あふん……あんっ」 という、女の様な喘ぎ声が聞こえてきた。 俺がお坊さんを見ると、お坊さんは、はぁーと溜め息をついた。 以後、俺がお坊さんから聞いた話を纏める。 ヤマノケは、人間の情事による快感が大好きな、下劣な妖怪だ。 男と女ではその快感は女の方が勝るため、ヤマノケは女に取り憑く。 ヤマノケが憑いた後はひたすら自分を慰めるらしい、その人間が死ぬまでずっと。 ヤマノケは死なないので、その人間の体が死んだら、また新しい人間に取り憑く。 ヤマノケを落とすのに一番効果的な方法は、苦痛を与え続ける事と、またはこの上ない大きな苦痛を与える事。 具体的な方法としては、前者は拷問を続ける事。 爪を一枚ずつ剥がしていって、十枚剥がして落ちたヤマノケも居れば、二十枚剥がしても憑いたままのヤマノケも居た様だ。 後者で具体的な方法は、出産だそうだ。 出産に耐えられるヤマノケは殆ど居ないらしい。 しかしお坊さんにはそれを言わない人が多い、道徳的に。 そして俺は、選択を迫られた。妹に憑いたヤマノケがどこまで我慢できるか、妹の体を傷つける方法。 ヤマノケがおちる可能性は非常に高いが、妹を十三歳の幼さで母にする方法。 ヤマノケが勝手に出て行くのを待つ方法もあるが、そんな事はほぼ無いらしい。 両親にも連絡を取り、最初は大変取り乱していた両親だか、お坊さんが何とか話して落ち着かせてくれた。 そして選んだのは……妹に出産させる方法。 母は泣いていた。父はずっと黙ったまま俯いていた。 きっと二人とも、こんな事態になって俺が憎かったろう。 行為はその翌日に行われる事となった。父親となる人は、お坊さんが呼んでくれた専門的な人らしい。 真っ黒な髪は長く、膝位まで有り、それをひとつにくくっていて、甚平みたいな服を着てた。 お坊さんはその人に話し掛ける時、耳打ちする様に喋った。その人は頷くだけで、一言も喋らなかった。 そして次の日の夜、行為は行われた。 両親は帰って、俺は残りたいと言い残った。 お坊さんの計らいで、俺の寝る部屋と行為が行われる部屋は一番離れていた。 しかし、妹の喘ぎ声が一晩中響いていた。 俺はその夜ずっと、今までの無垢な妹の笑顔とか、思い出を思い出して泣いていた。 途中、お坊さんが入ってきて、お茶を置いてくれたが、泣き続ける俺を見て、 「だから帰れと言ったんや」 と呟いた。 そんな一夜を過ごした数日後、お坊さんが暗い笑みを浮かべて俺に言った。 「アイコちゃんに、赤子ができた。良かったな」 俺は無表情で頷くのが精一杯だった。 そして俺は家に帰ったが、またすぐに寺に行った。 家に俺の居場所は無かった。 流石に直接は言わないが、両親は確実に俺を非難していた。 しかし寺に行っても俺は辛かった。 なるべく妹と顔を合わさないようにした。 時にはお坊さんを求め、抱き着く事も有ったらしい。 俺は発狂の寸前で、いつも泣きながら生きていた。 あの数ヶ月はずっと同じ気持ち過ぎて、長かった様にも短かった様にも感じられる。 そしてその日。 「生まれるぞ!」 お坊さんは俺を呼びにきた。ヤマノケの執着心が苦しみによって薄れた瞬間、妹を呼ぶ事が大切なのだ。 お坊さんに手を引かれて、また俺は泣いていた。 その部屋に行くと、この世のものと思えない不気味な絶叫が響いていた。 「うあぁあっん! ぎぃやあぁあう!」 全裸の妹は嫌という程足を開かされ、手足を押さえ付けられていた。 苦痛に歪めた表情の合間に、あのへらへら笑いを覗かせる。 汗で髪を額にくっつかせた妹の顔に、以前の面影は無い。その時、 「うぁあっ……あ……あ」 お坊さんが叫んだ。 「今だ!」 その時そこに居た全員が、妹の名前を狂った様に呼んだ。 お坊さんは、何かお経を唱えている様だった。 「あ……あう……」 妹はもう、へらへら笑わなくなっていた。目を見開いている。 「アイコ、帰って来い! アイコ、アイコぉー!」 俺は声の限り叫んだ。 「あんぎゃあ! あんぎゃあ!」 お坊さんは呟く様に言った。 「生まれよった……」 妹を見ると、安らかな顔で気を失っていた。 へらへら笑いはもう無い。終わった事を悟り、俺はへたり込んだ。 その一週間後、俺は妹と車で帰った。 妹は何も覚えておらず、 「体が変だよ……」 と言い、張った胸を触っていた。 助産師みたいな人が、そういう病気にかかった事にしてくれていた。 俺はそれに話を合わせ、 「元気になって良かったな」 と言いながら、以前と変わらず笑う妹を見て複雑な気持ちになった。 しかし、ここからが悲劇だった。 家に帰って一ヶ月程経ち、妹が自殺した。 あの事件で少し情緒不安定になっていた母が、全てを妹に話したからだ。 二人きりの時に、全てを話したと母は言った。 「お前はもう生娘じゃない」 と言い、下腹部に指を入れたりしたそうだ。 その母は今は精神病院に入院している。 この事件から、俺の家族はバラバラになった。 だから、無闇に獣道に入らないでくれ。 そして、俺は妹の生んだ子供の行方を知らない……

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