らしきものがうっすらと見えはじめた。

子供をおぶってあやしているようなシルエットだったが、どんなに目を凝らしても影にしか見えない。
人と闇の境界にいるような存在だと、伯父は思ったと言う。
日が沈みかけて、ここが宵闇に覆われた時、あの影が蜃気楼のようなものから、もっと別のものに変わりそうな気がして、鳥肌が立ち、伯父は仲間をつれて一目散に逃げだした。

この話を大人に聞いてもらいたかったが、家の者には内緒にしたかった。
近所に吉野さんという気の良いおじさんがいて、話しやすい人だったので、あるときその話をしてみた。
すると、
「そいつは、つんぼゆすりかいなあ」
と言う。

「ばあさまに聞いた話じゃが、あのあたりではむかしよく幼子が死んだそうな。
つんぼの母親が子供をおぶうて、おぶい紐がずれてるのに気付かずにあやす。
普通は子供の泣き方が異常なのに気付くけんど、つんぼやからわからん。
それでめちゃめちゃにゆすったあげく、子供が死んでしまうんよ」

伯父は寒気がしたという。

「可哀相に。せっかくさずかった子供を自分で殺してしまうとは、無念じゃろう。
それで、今でも子供をあやして、さまよい歩いてるんじゃなかろうか」
「それがつんぼゆすりか」
と伯父がつぶやくと、
「鬼ゆすりとも言うな」
「鬼ゆすり?」
「なんでそう言うかは知らんが・・・。まあ、そうしたことがよくあった場所らしい」
伯父はなんとなく、あそこはそうした人たちが住んだ集落なのだろうと思った。

ほとぼりがさめたころ、伯父は仲間と連れ立ってまたあの集落にやってきた。
一軒一軒まわって念仏を唱え、落雁を土間にそなえて親子の霊をなぐさめた。

そして、また以前のように遊びまわってから、夕暮れ前に帰ろうとしたとき異変が起きた。

森に入ってから雨が降り出したのだ。さっきまで完全に晴れていて、綺麗な夕焼けが見えていたのに。
伯父たちは雨の降る森を駆け抜けようとした。

しかし、どうしてそうなったのか分らないが、方角がわからなくなったのだという。
一人はこっちだといい、一人はあっちだという。
それでもリーダー格だった伯父が、
「帰り道はこっちだ間違いない」
と言って先導しようとしたとき、その指挿す方角から、かすかに赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。
一人が青くなって、
「あっちは元来た方だ」
と喚いた。
頭上を覆う木の枝葉から雨がぼたぼたと落ちてくる中で、伯父たちは立ち尽く

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コメント(4)

この事は一切忘れると誓ったのに、覚えているは言いふらすわで草

昔もこんなことがあったんですね

逃げるとこの話しに 覚えがある 読んだ話しかな?

刀自って、女なのね(; ̄^ ̄)

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