ミーンミンミン ミーンミンミン。

 蝉の声がうるさかった。
 ただ、助かってもいた。アイツの声が誤魔化されるからだ。

 五日前。大学のサークルの仲間と肝試しに行った。県と場所は伏せておくが、結構有名な所だ。
 男女三人ずつで、その内の俺の高校からの付き合いだった奴が運転をした。深夜一時半集合で、トンネルへと向かい始めた。車内では女子三人が楽しげに話し、俺らもからかい合いながら笑い合っていた。
 トンネルに着いた。
「ねえ、なんかちょっと怖くない?」
「そりゃあ夜だもん。当たり前じゃん!」
「そりゃあそうだな(笑)」
呑気な会話をしながら少しずつ進み、真ん中ら辺で一回止まる。
 二時になり、怪談通りクラクションを四回鳴らした。
 ファーン ファーン ファーン ファーン

 

 「あれ?なんか、後ろから聞こえない?」

クラクションの響きがおさまると、女子の内の一人が声を上げた。
 「あ?車でも来たん」
後ろを振り返った一人の言葉が止まった。
「どうしたよ、急に止まって」
振り返った奴が、急に震えだした。
「おい、どうしたって」
「後ろ、後ろ見てみろよ、あれッ!!」
カタカタと小刻みに体を揺らしながら、指をさす。
「後ろってうわああぁあああァッ!!!」
そいつの声で一斉に後ろを振り向く。
「キャアアァアアッッッ!!!!」
 
 女だった。車の後ろに張り付いた、目のポッカリ空いた女が、俺達を見てわらっていた。
「車!車出せ、早く‼」
俺は必死に叫んだ。我に返った仲間が急いで車を発進させる。
 ヤバい、目が合った。あの空洞の穴が、俺を見た。
それからは女子共は泣き、男は震えていた。それぞれの家へと着くと、飛ぶように走っていった。俺もその内の一人だ。

 あの日から、俺は毎日最悪な日々を送っている。
 女は、ついてきていた。返り血で点々と赤のしみが付いた白いワンピースを着たあの女の、ポッカリと空いた目と鏡越しで目が合う。
 深夜二時になると目が覚め、耳元で笑いを含んだ声が囁かれる。

「お前は死ぬ、死ぬ、死ぬ、殺す、死ね、死ね、死ね」

 空が明るくなるまで言われ続け、日中は常に近くで見られている気配がする。
最近は外にでる気力もなくて、大学も休んでいる。サークルのメンバーから電話が来るが、電話にあの女の声が入るため、怖くて出れない。
 唯一の救いといえば、蝉の声がうるさくて、日中は少し気が紛れることくらい。
 

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