友人の話です。
彼女の姉が経験した話です。
では、話ぶりをその姉が語っているような形でお話します。

私は、M県の県立高校の三年生です。

この話は当時高校三年生だった姉の、仮にKさんとしますが、後に話したことです。

Kさんが高校を卒業してから、三年生当時の経験を話してくれた内容です。

高校近くの小高い丘には「人食い沼」といわれている、森に囲まれた不気味な沼があります。
ここには、昔から何人もの人が呑み込まれて命を落としたという話があって、子供の頃から近付くことを固く禁じられて来ました。
けれども、私の家から高校へ行くには、沼の脇の道を通り抜けるのがいちばん早いのです。
普段はなるべく避けているのですが、遅刻しそうなときや帰宅が遅くなったときに重宝していました。
あれは、梅雨の日のことです。
部活動を終えて外に出た私は、天を仰いで思わず顔をしかめました。
昼まで晴れていたのに、いまは鉛色の雲がどんより立ち込めて、すぐにも雨が降りだしそうな気配です。
運の悪いことに、私は朝の天気の良さに油断して雨具を用意していませんでした。
「雨が降る前に、早く帰らなくちゃ」
私は、自転車の前カゴに鞄を入れると、ペダルをこぎだしました。
と、それに合わせたかのように、
大きな雨粒がポツポツと落ちてきました。
空の様子から見て、本降りになるのは時間の問題です。
私は、迷わず沼の脇を通ることを選択して、雨が強くならないことを祈りながらバンドルを切りました。
けれども、願いも空しく、沼に差し掛かる頃には雨が激しくなり、私は全身びしょ濡れになりながら自転車を走らせることになりました。
そして、沼に近づいたとき、私は沼の脇に誰かが佇んでいるのを見つけたのです。
最初は小さな黒い塊のように見えましたが、近付くにつれて、それが老婆の姿であることがわかりました。
激しい雨で、彼女の表情を見ることは出来ませんが、泥まみれのモンペ姿の老婆は、
どしゃぶりの中で傘もささないで、ジッと沼を見つめているのです。
私は、つい老婆の傍で自転車を止めました。
〈もしかしたら、急な雨で帰れなくなったのかも知れない。あるいは、沼に飛び込んで自殺する気なのかも〉
そう考えると、老婆を無視することも出来ませんでした。
それに、手入れした形跡のないボサボサの髪を見ても、彼女が普通の状態でないのは想像がつきます。
「どうしたんですか?」
私が自転車を降りて声を掛けると、

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