ある島での話

夏になると観光客も多くなり、その時期だけ、東京からバイトを雇っていました。
その島の中でも大きなホテルでは、8月も終わる頃、バイトの人たちの慰労も兼ねて、ドライブに行くことになりました。
ドライバーに、正社員の仮名速水洋介が声掛けられました。
「速水君、きみも良いだろ?」
「夏恒例の怖い所巡りですか?」
速水君は乗り気がしません。
「俺はちょっと……」
なかなか断り難い雰囲気の中なんだけど速水君は躊躇いを発しました。
「まあ、そう言わずに運転手頼むよ」
チーフに言われて、
結局、運転手を引き受け、合計六人のバイトと社員が参加することになりました。
供養橋、火葬場などのゴーストスポットを回り、最後に『ほたる水路』に着きました。
ここは観光用に整備され、夏にはほたるを離す公園のような所です。
速水君以外とみんな賑やかに歩き始めました。速水君たばこに火を付け、みんなの後ろからゆっくり歩き始めました。
彼の頭には「みんな好きだねこういうの」
というめんどくさいと思う感覚しか、無かったと言います。
10分くらい歩いた所で、トイレを見付けました。
速水君は何気なく、そちらの方に目をやりました。
斜め前方に人が一人歩いているように見えたのだそうです。
背が相当に高い人のように見えて、その身長から驚きを隠せませんでした。
トイレの屋根の上がらはみ出して、肩が見えました。
あまり興味も意識も持っていなかった速水君は、呑気にたばこを吸いながら、しかし、みんなの反応を見るために、人がいることだけを伝えようと、彼の少し前方を歩くみんなに呼び掛けました。「人がいるよ、トイレの方に」
みんながそちらの方に目を向けた、その時に一人が「ひっ」っと声を上げました。
モヤなのか、暗がりだからか、首から上がよく分かりませんでした。
声を発した主の方に目をやると、その顔が強ばっています。
「なんだ?」
差された指先の方を見ると、速水君以外にもモヤなどにしか見えないのか、誰も反応を示しませんでしたが、何を思ったか、
みんなはそれを取り囲み……
見てしまったのです❗
頭を片方の腕で支え、浮くように、ソレハ移動していたのです!
そして目だけでみんなを睨んで言いました。
「ミタナ……。」

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