たのだが、一応、窓を開けて先程のお礼を再度、述べたそうだ。するとお婆さんは
「せっかくだから家でお茶でも飲んでいきんさい」
と彼女に強くすすめるので、導かれるままに、彼女は車を降りたそうだ。
(このあたりから、記憶ははっきりしているが、彼女自身の意思とは別のモノに操られている感覚があったという)
 すると、お婆さんが家の中に向かって、
「おじいさーん、きょうこさんが帰ってきたよー」
と意味不明のことを口走った。すると、その声に応じて家の中からお爺さんが出てきて、
「ああ、きょうこさん、よう帰ってきたね~」
と、彼女には全く理解できない内容の声をかけてきたのだ。彼女の名前は「きょうこ」ではないしその老夫婦もその日初めて会った見知らぬ他人だったのにもかかわらずだ。
 その時、彼女は母屋の中から彼女をじっと見つめる明らかな視線を感じた。 ぎょっとして納屋の方を見るが、もちろん中の様子はわからない。
 彼女は気味が悪いのをこらえて、お爺さんにすすめられるまま、縁側に腰をかけた。
 縁側に彼女が腰をかけてもそのお爺さんは
「きょうこさん、よう戻ってきた」
 などと変わらず、意味不明のことを彼女に言うので、彼女はこのお爺さんは、きっと少し痴呆が入ってるのだ、と解釈し
「いえ、私はただの通りすがりの者で、きょうこさんじゃありませんよ」
と言ってみたのだが、お爺さんは全く聞く耳をもたない。
 次の瞬間、
彼女は意識を失ってしまい、ふと気がつくと母屋の中の仏間にお爺さんと二人でなぜか座っていた。彼女は自分の意識がなぜ飛んだのか わからなかったが、お爺さんはまた一方的に彼女に話しかけてきた。
「昼の間は他のもんは出払っとって、ワシ一人じゃけえのう」
彼女は気味悪さをこらえつつ
「あ、そうなんですか?でも、納屋の方にひょっとしたらどなたかいらっしゃるんじゃないですか?」
と聞きかえした。すると、
「ああ、あれは家の孫の子なんじゃが、結核を患ろうて、ここに置いとるだ じゃ。数のうちには入りゃあせん」
とお爺さんは言う。
「ああ、病気の療養されてるんですか。それは大変ですね」
と彼女が言ったその瞬間、何者かが彼女の腕をギュッと掴んだ。
びっくりして彼女が自分の腕を見ると、3歳くらいの女の子が腕を掴んでいた。
 いつの間にその部屋に来たのか、まったくわからなかったのだが、その少女は無表情な顔でじっと彼女を見つめている。
 彼女はもう、本能的

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