高校生の頃、インフルエンザで高熱を出した。意識が朦朧として、救急車で病院へ。
肺炎と分かり三日ほど寝込んだが、なかなか体力が回復せず、そんまま半月ほど入院した。

定時に看護師が点滴を交換したり、配膳したりで訪れたが、時々30代半ばくらいの
看護師がたいした用事もないのにふらりとやってきて、こちらの顔を窺うことがあった。
やっと食事が取れるまで回復して、看護師とも会話できるくらいになった。
そこで、時々見回りに来る看護師について聞いてみた。

「あの人は何をしに来るんですか」と言うと、そんな暇がある職員はいない、
名前は?と聞かれ、白衣ではなく、薄緑色のナース服だったと答えると、
一瞬こわばった表情になってこちらを見た。あきらかに動揺して、最近も来たの?と
小声で話しかけられ、この三日は来ていないと答えた。
何回来たか覚えているかと聞かれ、五六回かなと返すと、パートで頼んだ人だったかも、
などと曖昧に口を濁し、それきり部屋を出て行った。

その病院を退院して一年後、足の指を骨折して再び訪れると、偶然に謎の看護師の女性と出くわした。
女性は急患受付の廊下にいて、運ばれてきた老人の担架を無表情に覗き込んでいた。
その様子が変だと感じると、ぱっと全身に鳥肌がたった。

視線を逸らすのが遅れた瞬間、彼女はこちらに気づいて、スウーと近づいてきた。
そして、「あんた、私が見えるの?」と話しかけた。
思わず両手で顔を覆い、心の中で消えろ、消えろとつぶやいた。
五分ほどそうして顔を上げると、もう彼女の姿はなかった。
幽霊を見たのはそれっきりだが、死神だったのかもしれない。

通常版で読む