これは祖母から聞いた話です。
時代は戦後すぐのこと。
祖母は当時、女学校に通っていました。祖母には七才離れた弟がおり、弟は当時小学生でした。
その日、学校が終わって友達と遊びに行っていた弟は、日が暮れても家に帰ってきませんでした。
田舎の山村のことであり、家族の者もあまり気にはしませんでした。
日も落ちて辺りが真っ暗になった頃、庭をぴょんぴょんとかけて玄関に近づいてくる足音が聞こえたといいます。
祖母と母親は居間で話をしていました。
その足音が玄関の前でぴたりと止まりました。祖母は弟が帰ってきたと思い、夜遅くまで遊んで帰ってきたため、
少し反省させないといけない思い、玄関の鍵を閉めて家に入れなかったといいます。
祖母が玄関の鍵をかけた直後、玄関をどんどんとたたく音が聞こえました。
しかし祖母は『少し外で反省しなさい』と言い、すぐに玄関を開けませんでした。
その後すぐに音がしなくなったといいます。
音がしなくなってすぐに祖母が玄関の扉を開けるとそこには誰もいませんでした。
すぐに庭に出て、あたりを見渡しましたが人の気配はありません。
それからいくら待っても弟は戻ってきません。
『人さらいか神隠しにでもあったのかもしれない』
心配した祖母と母親は近所の人に頼みこみ、弟を探してもらうことにしました。
近所の男性たちが弟を探しに行きましたが、数時間探しても見つからず諦めかけていたときのことです。
一人の男性が弟を発見しました。
男性によると山の中のお稲荷さんの祠の前を通りかかったとき、祠の前の草むらがゴソゴソと揺らいだそうです。
その草むらを掻き分けてみると、そこに丸まって眠っていた祖母の弟がいたそうです。
そのときの記憶を祖母の弟は一切覚えていません。
『たぶん、一人でいたところを狐に連れて行かれたのかもしれない。あの時、玄関を叩いたのも
弟ではなかったのかもしれないね』
祖母はそう話しました。