ある時期、私は金縛りによく合っていた。
暗闇の部屋の中、なんの前触れもなく目が醒める。
金縛りは決まって仰向けに寝ている時に起こった。
身体は動かず、辛うじて眼球運動が可能である事は分かる。
しかし闇の中視界が暗く何も見えない。
暫くして目が冴え、室内の輪郭がぼんやりと見えるようになる。
何か良からぬものが視界に入るのでは無いかと、身体中に響き渡る程心臓が鼓動で震える。
朧げで心許ない視界の中、暫く周囲を見回していると、視界の真ん中と左右に黒い影が見える。
どうやら私の頭を誰かの両足が跨いでいることが分かった。
仁王立ちの様に、私の頭の両脇に足を踏み締めるその誰かは、私の足元を向いて立っている。
自分の家族とも考えたが、感覚として人ならざる者の気配を感じた。
私は必死に瞼を閉じ、その何かをやり過ごそうとする。
気がつくといつの間にか眠っていて、朝の陽射しで目が醒める。
仁王立ちの何かは消えていた。
少なくとも3日おき、多い時で1週間連続でそういった怪現象が起きていた。
私はこの不可思議な現象に対し、専門的見地からの説明がつかないかを模索した。
程なくしてインターネットの検索で、それは呆気なく全貌を晒した。
金縛りは科学的に実証されていて、深い眠り、浅い眠りの繰り返しの中、所謂レム睡眠状態の時に起こる睡眠障害だそうだ。
金縛りは霊の仕業では無くただの疲労だ。
不安や恐怖を感じる必要など無いのだと、専門家が提唱している。
金縛りから抜け出す方法も、簡単に行えるとの事だ。
眼をゆっくりと動かして、自分は目が醒めていると自覚する事で金縛りから解放される。
この方法を知った当時、私は再びの安らかな眠りが可能になる事への安堵感と、疲労により起こるという原因に対して肩透かしを感じていた。
この方法を知ってから、渡りに船とばかりに次に金縛りにあったら試そうと考えた。
また、あんなに嫌煙していた金縛りを待ちわびる様になった。
数日後、金縛りが再び現れるまでは。
その日も闇の中、いつもの金縛りの様に身体が動かず眼球運動を認識できた。
金縛りに対し免疫が出来たかの様な根拠のない自信で、俄かに見知った情報を早速試してみる。
眼球を動かしながら、自分は目が醒めている、身体よ動けと念じ続ける。
念じ続けながら部屋の中を見回していると、薄っすらと闇に目が慣れていくと共に、やはり私の頭を跨ぐ様にして仁王立ちになっている何かがいた。
視界に捉える

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