いつの日の事だっただろうか。
娘と会話したのは、10年も前の話になる。
その娘が、結婚する事になり、私はこのうえない気持ちでいっぱいだった。
娘の家は東出雲町にあり、その地域では黄泉比良坂という坂がとても有名だった。
ついでに、娘の家による前に黄泉比良坂にでも寄ろうと考えていた矢先、電車は東出雲町についていた。
重い腰を上げ、黄泉比良坂を目指し、歩いているとめまいがした、いつもの事だが今回はやけにひどい、少し治ると歩きだし、黄泉比良坂につくと、頭がくらくらし、水を持って来えば良かったと後悔した。
横から大型のリュックをせよった青年が、水でもどうぞと、水筒を私に用意してくれた。
私はそれを一気に飲み干すと、その青年は、私と黄泉比良坂に登ってくれると言ってくれた。
青年は黄泉比良坂の話をしてくれた
黄泉比良坂は日本神話において、生者の住む現世と死者の住む他界(黄泉)との境目にあるとされる坂だという事を教えてくれた。
死者は生者に黄泉(死界)の食べ物を渡す事で、生者を道連れにするという事、この坂を登っているときに誰に会って、食べ物を渡されても決して食べてはいけない。
食べてしまえば黄泉の民として、この世界にはもう戻ってこれない。
青年はそう言ってガムを私に渡してきた。
私はゾッとした。
今の話が本当ならば…と考えてしまい、食べるのを躊躇った。
青年はとてつもなくがっかりした表情で私をみていた。
私はふと思った。
黄泉比良坂は登りしかないはずなのに、私は今、坂を下っている…?
青年の顔を見ると、ニタァととてつもなく不気味な表情を浮かべていた。
この青年から貰った食べ物は食べていない、そして私は気づく。
私は後悔の念でいっぱいになった。

通常版で読む