これは私が駆け出しのライターだったころの話です。
私はまだ大学を出て間もないころ、一つ下の後輩と編集部の上司と一緒にT県の古い洋館に行った。
霊など微塵も信じていない私がそのとき初めて感じた、本当に暗いという感覚…
まるで空から影で包まれているような暗さに驚いた。
「ねぇ…なんか暗くない?」
小声でこっそり後輩に言うと、不思議そうな顔をして
「なに言ってるんですか?先輩」
と首をかしげた。上司も同じだった。
30分ほどしてヨウイチという館の持ち主が合流した。
こんな薄気味悪い洋館をよく所有できるなぁ…と思いつつも自慢げに案内するヨウイチさんに付いていった。
中に入れば剥製だのアンティーク人形だの古くて気味悪いものばっかり置いてあった。
心なしか人形が全員こちらを目で追っていたのはこの際気のせいとした。
自慢の客間というところに通されれば無数の標本(多分虫?)が壁一面にびっしりと飾られていた
その中に一際目立つ標本が飾ってあった
ナマズの標本…と記されていたが、生まれたての子犬をミイラにして黒く焼いたような感じのわからないものが真ん中にピンで固定されていた。
ふと、そのナマズと表記された半下の部分を見た。
生、子、としっかり書かれていた。
私はその表記を見るなり逃げ帰るように地元に戻った。
(ナマズとは地方方言で生子…生きている子となる。魚のほうの読みが流通してる今はほとんどこの方言読みをしないはず…)
それ以来、後輩や上司とも連絡が一切取れていない。
ナマズの標本…あなたの近くにもあるかもしれませんね。